吉野家HD、売上増なのに赤字転落の惨状…空前の人件費膨張&ステーキ苦戦で利益食い潰す

吉野家の店舗(撮影=編集部)

 牛丼大手の吉野家ホールディングス(HD)は、外食業界のなかでもコスト全体に占める人件費の割合が高いことで知られている。同社の2018年3~8月の連結決算の最終損益が8.5億円の赤字に転落した。前年同期は12.9億円の黒字だった。中間期の最終赤字は8年ぶりのことだ。

 売上高は1003億円と前年同期比2.7%増。初の1000億円の大台に達した。しかし、人件費などを含む販管費の負担が重く、本業の儲けを示す営業利益は5500万円にとどまり、同97.4%減と大きく落ち込んだ。

 主力の牛丼の「吉野家」は好調だ。売上高は4.7%増の508億円。メニュー改善や家族層への値引きなどのキャンペーンが奏功、既存店売上高は4.0%増えた。だが、売り上げは伸びてもコストの増加を補い切れなかった。肉やコメなどの原材料が高騰し、人件費も上昇した。店舗の従業員の採用や教育の費用が膨らんだのは人手不足が背景にある。新規出店に伴う採用が追いつかず、現有の従業員の残業代も増えている。吉野家のセグメント営業利益は12.4億円で同36.7%減だった。

 吉野家HDは19年2月期通期でも11億円の赤字(18年2月期は14.9億円の黒字)になるとの見通しを明らかにした。通期の最終赤字は13年2月期以来、6期ぶりとなる。前回の最終赤字は、牛丼の価格競争と原材料価格の上昇が理由で、“牛丼戦争”がもたらした赤字といえる。

 しかし、牛丼業界は15年秋を最後に激しい値下げ競争は打ち止めとなった。消費者が低価格に慣れ、値下げ効果が薄れたためだ。今回の赤字転落の原因は、牛丼の価格競争ではない。

アークミールの前に立ち塞がる「いきなり!ステーキ」

 ステーキ店などを手がける子会社のアークミールの業績が振るわないことが、赤字転落を招いたといっていいだろう。

 牛丼最大手の吉野家HDがステーキ店を経営するまでに紆余曲折があった。アークミールの前身は2社ある。1社は関東地方で「ステーキのどん」を展開するどん。もう1社はダイエー傘下で「ステーキハウスフォルクス」を展開するフォルクス。ダイエーグループの解体に伴い、05年にどんがフォルクスの株式をダイエーから取得して子会社にした。

 06年3月、大阪証券取引所2部上場のフォルクスと非上場のどんが合併し、企業規模が大きいフォルクスが存続会社になったが、商号をどんに変更した。合併後の役員も、旧どんの出身者に入れ替わった。「フォルクスが実質的な存続会社ではない」と判断した大証は、「不適当な合併等」、いわゆる“裏口上場”にあたるとして上場を認めなかった。

 08年、吉野家HDが引き受けるかたちで15億円の第三者割当増資を実施。どんは吉野家HDが34.8%を保有する持ち分法適用会社になった。

 どんは、ステーキのどんを中心に不採算店を閉鎖。リストラに取り組んだ。しかし、10年2月期の単独決算の最終損益は28億円の赤字となり、期末に17億円の債務超過に陥った。大証が指定する猶予期間中に「利益1億円以上」という上場基準を満たせず、10年7月に上場廃止となった。

 以後、吉野家HDがどんの再建に取り組んできた。15年9月、株式交換方式で吉野家HDの完全子会社とした。社名をどんからアークミールに変更。新しい社名は掛け橋を意味するアーチと食事のミールを掛け合わせた造語。さまざまな出身母体の社員が垣根を越えて融和するという意味合いを込めた社名だ。

 アークミールは、ステーキのどん、ステーキハウスフォルクス、しゃぶしゃぶどん亭、ドン・イタリアーノを運営。関東、関西、九州に計177店を展開している。吉野家HDはステーキ店を牛丼に次ぐ営業の柱に育てようと考えた。

 その頃、外食業界は空前の肉ブームに沸いていた。焼肉、すき焼き、しゃぶしゃぶが定番だったが、赤身肉や熟成肉をメインに据えたステーキハウスが新たに登場。13年の米国産牛肉の輸入制限の緩和、15年のオーストラリア産牛肉の関税引き下げが起爆剤となった。

 米国の高級ステーキハウスが日本に進出するなど、ステーキハウスは戦国乱世模様となったが、立ち食いでステーキが手軽に食べられる、ペッパーフードサービスの「いきなり!ステーキ」が、その中から抜け出した。

 一方、アークミールはブームに乗り遅れた。同社の18年3~8月期の売上高は103億円で、前年同期より11.6億円、10.1%減った。セグメント営業利益は3.4億円の赤字(前年同期は2.1億円の黒字)に転落した。アークミールの低迷が、吉野家HDが赤字を計上した大きな原因だ。

 期初の計画では、アークミールの19年2月期の既存店売上は前期比0.2%減としていたが、上半期の実績は2ケタの減。通期では想定しているような横這いでは収まらないだろう。

 通期の既存店売上計画は、吉野家が2.6%増。上半期の実績は4.0%増だから、慎重な見方をしていることになる。セルフ形式の讃岐うどん店の「はなまる」が1.0%増、都市型回転寿司「海鮮三崎港」を運営する京樽が3.6%増を計画している。アークミールだけがマイナス成長だ。

 上半期のセグメント営業利益は吉野家(12.4億円)、はなまる(7.6億円)、京樽(1.9億円)と軒並み黒字を記録したなかで、アークミールは3.4億円の赤字だった。アークミールの再建が吉野家HDの喫緊の課題となっている。アークミールは毎月2日と9日を「肉の日感謝デー!!」として、ステーキのどんで「熟成リブロインステーキ」を500円引きして販売する。

 牛丼戦争を生き残った吉野家HDは、ステーキ戦争で勝てるのか。
(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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