では、事業者のメリットは何かというと、大手事業者ではできない2%還元ができることと、キャッシュレス対応を望んでいた顧客が増えるかもしれないということだけである。しかし、実際に顧客が増えてシステム導入前より利益が上がるかというと、そんな簡単なものではない。
なぜなら、食品以外が2%増税されるので、電気・ガス・水道などの光熱費、旅費交通費、通信費、消耗品費などの経費は確実に増えるからだ。増税前と同じ値段で販売個数が同じであれば、利益は減る。キャッシュレスにしたからといって、そんなに簡単に顧客は増えない。商店街のライバル店がキャッシュレスにすれば、顧客は流れてこない。さらには、中小事業者の店でクレジットカードを使うことについて、セキュリティが心配で躊躇する人も出てくる。
では、大手より2%安く販売できるから顧客が流れてくるかというと、ほとんど期待はできない。大手小売店に行っている人が、品揃えが少なくフードコートもない店に来る可能性は低い。大手より2%安いといっても、元の値段が高ければ、実際に払う金額は大手小売店のほうが少なくなるので来てくれない。
しかも、ポイント還元は期間限定なので、事業者が初期投資をしても、半年か1年間という短期間になる可能性がある。こんな制度が、本当に中小事業者のメリットになるのだろうか。メリットどころか非常に大きな負担だけを背負うことにもなりかねない。
中小事業者を襲うトリプルパンチ
来年10月の消費増税後、1年もたたないうちに東京五輪は終わり、終わった後は不況になると予測する専門家が多い。リーマンショックのような五輪ショックが日本に押し寄せるかもしれない。増税とポイント還元策と五輪ショックのトリプルパンチで、事業の継続が難しくなるかもしれないのだ。
中小事業者は慎重に対応したほうがいいと思うが、相談相手は顧問税理士が一番いい。商工会議所や商工会、組合、業界団体等では、ポイント還元システムの初期投資額やランニングコスト、国からの補助金などについては親切に説明してくれるが、メリットとデメリットについては個々の事業者の経営状況や事業内容を把握していないので、よくわからない。
一方、税理士は事業者の内部事情を知り尽くしている。増税前と増税後では、経費がどのくらい増えるのか、そのためにはどれだけ売上を増やさなければいけないのかなどを親切に教えてくれるだろう。たとえば「増税前の1.5倍の売上がないと厳しい」と指摘してくれるだろう。そうなると、1日100人だった顧客が150人に増えないと経営は難しくなるといった判断ができるかもしれない。
2%のポイント還元策は、本当にメリットがあるのだろうか。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)