団塊世代の全員が75歳を超える2025年に後期高齢者人口は約2000万人に達し、30年から40年にかけて「多死時代」を迎える。厚生労働省の推計によると、年間死亡者数が最多と予想される40年には、15年に比べて死亡者数が約36万人増加する。
多死時代に問われるのが、死亡場所の確保である。日本人の死亡場所は1950年代以降、病院が増え続けて、70年代後半に自宅と逆転した。今では約80%を病院が占めているが、厚労省は、医療費抑制を目的に病床の機能分化・再編による病床数削減を図りながら、38年に病院以外の「在宅死」(介護施設での死亡を含む)を40%に引き上げる方針である。
この在宅シフトを実現させる仕組みが、医療・介護・生活支援を地域で一体的に提供する地域包括ケアシステムである。厚労省は地域包括ケアシステムを全国の自治体で構築しようとしているが、なかなか進んでいない。
地域包括ケアシステムの要となるのは、自治体の保健福祉部門である。ところが、対応できる自治体は少ない。小規模自治体はマンパワー不足で取り組めず、その他の自治体でも、慣行である3年単位の人事異動によって、医療保険制度と介護保険制度に精通した職員が育ちにくいのである。
一方、老老世帯と独居世帯の増加で顕著になった家族の看護・介護機能の弱体化が、自宅での看取りを困難にしている。
「有識者が厚労省の意向を汲んで“病院から地域へ”とか“施設から在宅へ”というスローガンを示すことがありますが、自宅での療養が困難になっているのが現実です。病状に合わせて病院と自宅、あるいは病院と介護施設を往復する人たちが多いのです。こうしたスローガンは現場から見れば現実的とはいえません」(病院関係者)
在宅看取りが困難な状況で病床数が削減されれば、死亡場所の確保に支障をきたして“看取り難民”も発生しかねない。
“最期の質”を向上させる
この難題の解決に向けた政策のひとつとして、今年4月、介護保険制度に「介護医療院」という施設類型が創設された。介護医療院は介護保険法第8条第29項に次のように定義された。
「介護医療院とは、要介護者であって、主として長期にわたり療養が必要である者に対し、施設サービス計画に基づいて、療養上の管理、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設」