<(1)業務上の必要性が存しない場合(2)業務上の必要性が存する場合であっても不当な動機・目的をもってされたものであるとき(3)労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき、など特段の事情の存する場合には無効になるというべきである>
<異動先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである>
山岸弁護士は続ける。
「何がなんでも総務部門や経理部門の従業員を営業に配置転換しなければならないような差し迫った必要性までは必要ではなく、なんとなく余っている部署の人員の再配置や従業員の能力開発のため、モチベーションを高めるためなど、その企業の運営にとって“良いこと”であると認められるなら、『業務上の必要性』があるとして、配置転換は違法でもなんでもないということになります。
(今回の富士通の人員配置転換は)恣意的ではなさそうですし、間接部門をアウトソースして効率化・経費削減を図るため、また、富士通がテコ入れするIT分野の成長のためという理由なので、今回の配置転換が違法・無効とされる可能性は低いのではないかと思います。おそらく社員側が『今回の配置転換を撤回せよ』と裁判を起こしても、なかなか認めてはもらえないでしょう」
背景にRPAの普及
しかし、違法性はなくとも異動対象になる社員にとっては、雇用の選択すら迫られる深刻な問題である。公開データによると、富士通の社員平均年齢は43.3歳で、平均年収は790万円。かりに中小・ベンチャーに転職するのなら、年収の大幅ダウンを覚悟しなければならない。また、富士通に残ったとしても、「業務上の必要性」という名目で異動されられる事態は今後も起こり得る。
「富士通において、今回の人事異動は大規模な異動の第一弾にすぎず、今後も何度か実施される可能性があります。富士通に限らず電機、銀行、生保などで、間接部門の人員が大量にだぶついており、削減が行われると考えられます」
そう見通す溝上氏が根拠に挙げるのは、大手企業で進行するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の普及である。RPAとはロボットにより事務処理業務を効率化する技術で、普及すれば間接部門で余剰人員が大量に発生する。
大企業における人員整理は、これからが本番を迎えるのかもしれない。
(文=編集部)
時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。弁護士法人ALG&Associates執行役員として法律事務所を経営し、また同法人によせられる離婚相談、相続問題、刑事問題を取り扱う民事・刑事事業部長として後輩の指導・育成も行っている。芸能などのニュースに関して、TVやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。弁護士としては、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験を様々な方面で活かしている。