このように、次回の消費増税は前回と比べ経済成長率の押し下げ効果は半分程度にとどまるが、東京五輪の特需の反動減が起こる時期と重なる可能性があることには注意が必要だ。五輪特需は建設投資が主だが、1964年10月開催の東京五輪では経済成長率のピークは五輪の前年の63年10~12月期だった。20年8月開催の今回の東京五輪にあてはめると19年7~9月期になる。このため、外部環境にもよるが、いくら負担額が少なくなるからといって、無防備で消費税率を引き上げれば景気腰折れの可能性が相当高まるだろう。
デフレ脱却に影響、対策は不可欠に
なお、消費税に軽減税率が導入されると、IT関連業界への直接的な恩恵もあるが、事業所などでは会計システムの変更を余儀なくされることが想定される。日本経済への影響を考える上では、そうした負担の影響も考慮しなければならない。
また、本試算では内閣府のマクロ計量モデルの乗数を用いているため、社会保障充実の効果が平均的に出現する試算となっている。しかし、子育て世帯の限界消費性向の大きさ次第で、GDP押し上げ効果が変わる可能性には注意が必要だろう。
今後の消費税率引き上げの課題としては、まずデフレ脱却への影響が指摘できる。というのも、日本経済研究センターの「ESPフォーキャスト調査」に基づけば、フォーキャスターのコンセンサス通りにGDPが成長した場合は、19年10月から消費税率を引き上げると再度GDPギャップがマイナスになってしまうからである。特に14年4月の消費税率引き上げの際も、引き上げ直前にはGDPギャップが一時的にプラスになったものの、引き上げ直後に安倍政権発足以前のマイナス水準までGDPギャップが逆戻りした経緯がある。
また、消費増税は家計の恒常的な購買力低下で内需への影響が大きいという声もある。前回の消費増税で家計向けの支援策が0.7兆円弱にとどまったことからすれば、ある程度の規模の予算を配分した対策は不可欠であると思われる。一方で、将来のさらなる消費税率の引き上げ幅を抑制する意味でも、社会保障の効率化も必要といえるだろう。
将来的にも負担軽減策を併用すれば、その後の消費増税も実施しやすくなるが、逆に負担軽減策をおろそかにして国民の不満を高めてしまうと、その後の消費増税が政治的に困難になるだろう。将来の消費税率の引き上げを確実なものにする意味でも、家計負担軽減策は不可欠だと考えられる。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)