監視国家である中国においては、アリババが収集する膨大な個人情報は共産党がなんとしても入手したいと考えるはずだ。
中国の権力闘争はすさまじいものがあり、天網のようなシステムは国民を監視する手段としても使われているが、権力者どうしが相手を失脚させるためのツールとしても活用している。アリババは望むと望まざるとにかかわらず、こうした恐ろしい権力闘争の渦中に放り込まれてしまったことになる。
ネットでの選挙干渉はもはや当たり前の時代に
今年の4月にフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)が議会証言に立たされ、謝罪に追い込まれたのも同じ文脈で考えることができる。
英国のデータ分析会社ケンブリッジ・アナリティカが、フェイスブックのデータにアクセスする自己診断アプリを使って8700万人の個人情報を本人の許可なく入手。そのデータが2016年の米大統領選でトランプ陣営の選挙活動に使われたことが明らかとなった。
ネット企業によるデータ収集の問題は、これまでビジネス的、社会的なものと考えられてきたが、話はそれだけにとどまるものではなく、民主国家の根幹となる選挙という領域にまで入り込んでいることが今回の事件ではっきりした。
実はネットを使った選挙干渉というのは、すでに現実的な問題となっている。
今年7月にカンボジアで行われた総選挙では、中国がネットを使って選挙に介入した疑いが持たれている。カンボジアでは、与党・カンボジア人民党を率いるフン・セン首相が独裁的な政治運営を行っているが、前回の総選挙では、民主化を掲げる野党が躍進し苦戦を強いられた。
政権維持に不安を感じたフン・セン氏は中国に急接近するとともに野党を解体に追い込み、今回の総選挙は事実上の無投票選挙になった。選挙期間中には、国民に対して与党への投票を事実上強要するような活動があったともいわれている。もし中国による選挙介入が事実であれば、中国は経済的な支援のみならず、選挙の後押しまでしていたことになる。
これまでネットは社会の利便性を高め、民主主義や市民の自由拡大に寄与するツールと考えられてきた。だがここまでネットが社会に普及すると、統治機構といとも簡単に結びついてしまう。ネットについて企業単体の問題として議論することはほとんど意味がなくなりつつある。ネットが自由をもたらすという牧歌的な時代はすでに過ぎ去ったと考えるべきだろう。
(文=加谷珪一/経済評論家)