ファンド側は1兆1000億円の自社株買いを要求
東芝が自社株買いに踏み切ったのは、海外投資ファンドの圧力に屈したからだ。稼ぎ頭だった半導体メモリ事業を売却した資金が入り、18年6月末時点で現預金や有価証券などを合わせた手元資金は2兆15億円。1年間で1兆4877億円増えた。
昨年の増資を引き受け、東芝の株主となった海外ファンドなど「物言う株主」たちだが、豊潤なキャッシュに舌なめずりした。
東芝は米国の原発子会社、ウエスチングハウスと同グループの再生手続きによる損失など1兆2428億円を計上し、17年3月期に5529億円の債務超過に陥った。債務超過を解消するために昨年12月、6000億円の第三者割当増資に踏み切った。
60の投資ファンドが増資に応じたが、そのなかには旧村上ファンド出身者らが設立したシンガポールのエフィッシモ・キャピタル・マネジメントや米エリオット・マネジメント、同サーベラスなど、うるさ型の物言う株主が顔を揃えた。
第三者割当増資を引き受けた海外のヘッジファンドは、揃って巨額の株主還元を求めた。増資を取りまとめた綱川智社長は「東芝メモリ売却で危機を切り抜けた後には、株主に還元する」と約束した。
しかし、2月に就任が決まった三井住友銀行元副頭取の車谷暢昭・会長兼最高経営責任者(CEO)は「M&A(合併・買収)が重要」と発言。ファンド側が態度を硬化させた。株主総会で「車谷CEOの取締役選任議案に反対票を投じる」と経営陣に圧力をかけた。
香港を拠点とする投資ファンド、アーガイル・ストリート・マネジメントは5月28日付で車谷氏に書簡を送った。6月27日の株主総会前に「1兆1000億円の自己株式の買い戻しの方針を示すよう」求めた。同時に、「将来のM&Aの機会に備えて現金を保有することは、(信頼が回復するまで)株主は歓迎しない」と釘を刺した。
そして東芝は6月13日の立会時間中の午前11時、7000億円の自社株買いを発表した。株主総会で車谷氏の選任が否決されることを恐れた東芝は、物言う株主たちの圧力に屈し、自社株買いを実施すると公約したわけだ。
10月3日、米投資ファンドのキング・ストリート・キャピタル・マネジメントが、自社株買いの金額を7000億円から1兆1000億円に増額するよう求めた。
東芝メモリの売却で手元資金は1兆5000億円弱増えた。その4分の3近くをファンドに戻せと迫ったことになる。1兆1000億円を吸い上げられたら、なんのために東芝メモリを売却したのかわからなくなる。さすがに、「構造改革費用などを考慮して自社株買いの枠を7000億円とした」と東芝は理解を求めた。
ファンド側は、何を考えているのか。「臨時株主総会の開催を求め、もう一段の株主還元を求めるのではないか」との観測が駆け巡る。
外国人株主比率は72.32%(18年3月期末)に上り、圧倒的なパワーを持つ。そのため東芝の経営陣は戦々恐々としている。ことわざの通りに「無理が通れば、道理引っ込む」ことになるのか。