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小笠原泰「日本は大丈夫か」

東京地検特捜部、日産ゴーン逮捕で“期待外れの結果”も…脱税での起訴は困難か

文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授
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 それは、ゴーン氏を今、日本で逮捕したかったからであろう。脱税での立件が無理であれば、ゴーン氏逮捕の次の手段は、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)である。今後、特捜部がゴーン氏を有罪に持ち込めるかどうかは、多くの専門家が論じているので、ここでは深く触れないが、参考に以下論考を紹介しておきたい。

・11月29日付JB PRESS記事『検察は本当にゴーン氏を起訴できるのか』(郷原信郎弁護士)

・11月28日付ダイヤモンドオンライン記事『ゴーン不正の実態を会計から読み解く…金商法違反、脱税、特別背任』(八田進二・青山学院大学名誉教授)

 ゴーン氏は有価証券報告書の虚偽記載で有罪になるのではないかともいわれている。もし、ゴーン氏が株式で退任後の報酬を受けるとすれば、日産の有価証券報告書には「株価連動型インセンティブ受領権の金額は平成30年3月31日時点の株価を用いて算定した公正価格に基づき、当事業年度に計上した会計上の費用を記載している。この公正価額で、支払いが確定されたものではない」と記載されており、支払いが確定されたものではない報酬についても、有価証券報告書に記載すると明記されていると指摘されているからである。

 確かに株主の不利益につながる虚偽記載であるが、問題はこれがどのくらい株主に影響を与える重大な犯罪かいう点である。株主の不利益につながるという点では、一般的にいって、役員報酬記載は有価証券報告書の基幹である貸借対照表や損益計算書に比べて、株主の判断に影響して大きな不利益を生むとはいえないであろう。金融庁も、役員報酬についてはその程度の認識であったので、今回のゴーン氏逮捕を受けて、あわてて役員報酬の「決め方」について開示義務付けの方針を決めたのであろう。

特捜部の勲章にはならない

 今回のゴーン氏の逮捕で、日産のガバナンス、コンプライアンスの低さを露呈したことにより、日本企業の開示情報の不透明さに対して海外投資家の間で不信感が広がる懸念がある。金融庁の開示義務付けの方針決定には、それに先手を打つという意図があったのであろう。実際、今回の義務付けの内容は、報酬額ではなく、報酬決定のルールについてである。海外の投資家は、企業の透明化の観点から、報酬額の多寡よりも、その決定方式に関心を持っているからである。日産は報酬額の決定方式については明記しており、ゴーン氏の実際の報酬額を有価証券報告書に明記していなかったとしても、株主はそれほど大きな不利益を被らないだろう。

 特捜部もこのことは十分に承知しているはずである。このまま有価証券報告書の虚偽記載で有罪にしても、重い刑罰は想定できないので、これだけ大騒ぎして国際的にも注目を浴びた割には、竜頭蛇尾の感はぬぐえない。司法取引を利用して立件し、巨大な悪を召し捕ったという特捜部の勲章にはならないであろう。それゆえに、特捜部はゴーン氏の特別背任罪や業務上横領罪での立件を視野に入れているといわれるのであろう。

 しかし、これらでの立件は容易ではないと多くの専門家が指摘しているとおり、今回の再逮捕は、そのための時間稼ぎともいわれている。しかし、今回の起訴と再逮捕までは、日本国内でのゴーン氏解任とその正当化という点では、特捜部の描いたシナリオ通りであろう。

 次回は、特捜部の緻密なシナリオに狂いはないかを見てみたい。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)

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