もちろん、値上げした飲食店がまったくなかったわけではない。近年では、すき家や松屋のほか、ラーメン店「日高屋」、長崎ちゃんぽん専門店「リンガーハット」、「天丼てんや」などが値上げを実施している。ただ、値上げを実施したものの、対象を一部の商品にとどめたり、値上げ幅を小さく抑えたりしており、値上がり感が強くならない規模にとどめたところがほとんどだ。
しかし、鳥貴族は全品で約6%値上げを断行した。値上げ率6%は、決して小さくはない。そして何より“全品”を値上げしたことが大きいだろう。対象が一部の商品であれば、消費者は「自分が欲しい商品は値上げされていないかもしれない」という淡い期待を持つことができるが、全品となれば、購入する商品が確実に値上げされているので、そういった期待を持つことができない。そのため、全品の値上げは値上がり感を高まりやすい。こういった消費者心理が働き、鳥貴族を敬遠する人が少なくなかったのではないか。
確かに原材料費や人件費は高騰しているので、値上げしたい気持ちはわかる。しかし、このことは消費者にしてみれば、まったく関係ない話だ。消費者が店側の懐事情よりも自身の懐事情を気にかけるのは当然のことといえる。鳥貴族のような低価格を売りとする飲食店であればなおさらだろう。そういった消費者を軽視するべきではなかったのではないか。
消費者の懐事情は、依然として厳しい状況が続いている。特に鳥貴族のコアターゲットとなる男性会社員はかなり厳しい。新生銀行の「サラリーマンのお小遣い調査」によると、18年調査の男性会社員の毎月のお小遣い額は3万9836円だった。1日当たり約1300円でやりくりしなければならない金額だ。月のお小遣い額は、近年やや上昇傾向が見られるが、それでも以前と比べると大きく減っている。たとえば、01年調査の5万8825円と比べると32%も少ない。
こういった男性会社員が、仕事帰りの1杯を少しでも安く済ませたいと考えるのは当然だろう。1品税抜き18円の値上げだが、“ちょい飲み”として5品注文すれば税込みだと約100円の負担増となり、“しっかり飲み”で10品注文すれば約200円の負担増となる。1日当たりのお小遣いが1300円の男性会社員にとっては、相当な負担といえるだろう。「鳥貴族は、もはや我々の味方ではなくなった」と思う人がいても、なんら不思議はない。
こういった状況下、鳥貴族はどのような手を打ってくるのだろうか。新規出店を抑え、既存店にてこ入れする方針を打ち出してはいるが、抜本的な改善につながりそうな打ち手は見えてこない。
価格を元に戻すなど、大胆な施策が必要だろう。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。