いきなり!ステーキへの転換で相乗効果
「餃子無料券」を廃止したことも、味の改革における大きな施策となった。同無料券は集客において大きな役割を果たしていたが、値引きではなく味の向上で集客を図るために廃止することにした。客数が大幅に減ることを予想していたが、蓋を開けてみれば、客数が目標を上回る月が続く結果となった。同無料券には毎月1億円近いコストがかかっていたが、廃止することによりコスト削減も実現できたという。
「いきなり!ステーキ」への転換も奏功している。転換した16店舗は売上高と営業損益が共に改善した。18年4~9月期の売上高は前年同期の2.5倍となる14億円だった。営業損益は赤字幅が3800万円縮小し、2000万円の赤字にとどまった。通期では黒字を見込んでいるという。
「いきなり!ステーキ」への転換は、転換店だけでなく、転換店の近隣にある幸楽苑にも好影響を及ぼしている。自社競合がなくなったことにより、近隣店の客数が平均で前年同期比15%増加したという。たとえば、「いきなり!ステーキ富士蓼原店」から直線距離約3キロメートルのところにある「幸楽苑富士伝法店」の客数は53%増、「いきなり!ステーキ名取4号バイパス店」から車道での距離約1.2キロメートルの「幸楽苑中田店」は18%増となった。
サービス品質が高まったことも、好影響を及ぼしただろう。店舗の閉鎖を進めたことで余剰人員が発生し、それを他店舗に配置。1店舗当たりの人員数を増やすことでサービス品質を強化し、顧客満足の向上を図った。これにより、リピート率が向上するなど集客に好影響を与えたのではないか。
サービス品質の向上については、働き方改革も影響していそうだ。働きやすい環境を構築することで、従業員の生産性を上げる取り組みも始めた。そのひとつが営業時間の短縮だ。営業時間を短縮することで、従業員は夜遅くまで働かなくていいのでモチベーションは高まる。なお、営業時間の短縮を進めた結果、午前0時までに閉店する店舗は全体の84.4%に当たる439店になったという。
また、これからの取り組みとなるが、18年12月31日は午後3時に閉店し、19年1月1日を休業日とする方針も打ち出している。従業員が年末年始に働かなくていいようにしたのだ。幸楽苑としては初めての取り組みとなる。これにより推定で2億円弱の売り上げが消えることになるが、それよりも従業員満足を高めることを優先し、サービス品質の維持・向上を図りたい考えだ。
こういった取り組みが奏功し、売上高・客数の増加というかたちで成果として現れたわけだ。幸楽苑がV字回復を果たす日は、そう遠くないのかもしれない。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。