僕の家は仏教徒で、宗派は真言宗です。法事のような大きな法要に限るのですが、読経が始まってしばらくすると、お坊さんがおもむろに袋から金色の法具を取り出し、大きな音を鳴らし始めるのです。子供の頃は、座っているのに退屈し始めていると、小さな仏間に大きな音が響き渡るので、毎回びっくりしていました。
その後、オーケストラに興味を持ちだした頃に、再び驚くことになりました。その法具は、まさしくチャイコフスキーをはじめオーケストラ曲ではお馴染みの打楽器、シンバルとほぼ同じだったのです。鳴らし方もまったく同じです。お坊さんは、お経だけでなくシンバルの鳴らし方も勉強しなくてはいけないのかと思ったものでした。
さて、オーケストラのシンバルを見る機会があれば、大きく会社名が書かれていることに気づくかと思いますが、その文字を読める方はほとんどいないはずです。わかるという方は、打楽器奏者かトルコ語が読める方です。一番多いのは、“Zildjian(ジルジャン)”。これは、1623年に創業したトルコのシンバル製造会社で、1929年からはアメリカに本拠地を移していますが、今でも世界で最大規模のシンバルメーカーです。
シンバルはポップス音楽に欠かせないドラムセットにも付いているので、アメリカのロックグループも、日本のジャズトリオも、ジルジャンのシンバルを使っています。
ちなみに、現在でも主要メーカーはトルコ本社かトルコ系の会社で占められています。それどころか、佐賀県有田町が有田焼の産地のように、トルコにはシンバルばかりをつくっている小さな町があるそうです。その町の人々は、朝から晩まで手作業で金づちでカンカンとシンバルの表面を叩いて音色を調整しているのです。
余談ですが、オーケストラの打楽器で最大のもののひとつに銅鑼があります。これは中国の楽器です。欧米や日本のオーケストラも、漢字が書かれた銅鑼でチャイコフスキーやマーラーを演奏しています。
海外の楽器製作会社の話ばかりしましたが、日本にも評価の高い楽器メーカーがあります。もちろん、1月19日付本連載記事『なぜ日本では「ピアノをやる人」が多い?背景にヤマハの“ビジネス戦略”』でも言及した、世界的楽器メーカーのヤマハが筆頭ではありますが、埼玉県所沢市に本社と工場を構える村松フルート製作所は、そのクオリティの高さから、全世界のフルート奏者の間で有名です。僕も、世界のさまざまなオーケストラで、“ムラマツ・フルート”を愛用している奏者に出会います。