2008年にネットでの保険商品の販売が開始されて、ネクスティア生命保険(アクサダイレクト生命保険)、ライフネット生命保険が参入。若い保険未加入世代を中心に加入を増やしてきた。新規契約で両社が業界全体に占める割合は08年度に0.09%だったが、11年度には0.48%に増加。11年以降、参入企業が新たに5社増えたこともあり、12年度は生保市場全体に占めるネット生保全体のシェアは、1%程度になった。
各社が原動力としているのが、低価格に加えて、煩雑さの解消やわかりやすさの追求だ。ライフネット生命保険はスマートフォンで申し込みが完了できる取り組みを開始。11年に新規参入したオリックス生命保険は、業界では「禁じ手」だった他社商品との料金比較の広告を展開した。業界関係者は、「日本生命保険など既存の保険会社が猛抗議したと聞くが、逆に言えば、それだけ大手生保会社の料金が不透明ということ」だと解説する。
実際、大手生保はジレンマに陥っている。街中の店舗で複数社の保険商品を販売する「保険ショップ」の規制を国に働きかけてきたが、最近になり急きょトーンダウンしている。「大手生保は、『保険ショップ』の保険料や販売リベートの不透明性を指摘し続けてきたが、料金をガラス張りにしたら(割高の保険料である)自分たちのクビを締めることになりかねない」(同)と判断したと見られている。ネット販売も、大手生保各社は女性営業職員を多数抱えていることもあり、急速にチャネルのシフトができない現状が横たわる。
●新規参入も進むネット生保の課題
じわじわと存在感を示してきたネット生保だが、課題もある。12年度の新契約数、新契約高がいずれも前年度実績を割り込むネット生保も出てきた。これまでは若年層の未契約者数をターゲットにしてきたが、未加入者の掘り起こしだけでは行き詰まる。拡大のためには、既存生保からの乗り換え契約をどこまで取り込めるかが問われる。
実際、ネット生保への新規参入組も「保険」をかけた販売戦略を整える。9月には新たにチューリッヒ生命がネット生保市場に参入するが、一方で代理店網を拡大する方針を同時に示した。同社の日本でのシェアは0.1%にも満たないだけに、思い切った戦略が求められるはずだが、販売チャネルの多様化という安全策をとるところに、「ネット生保」の成長性への懐疑的な見方も透けて見える。
一方、国内大手生保の幹部は「生命保険は『家の次に高い買い物』。本やCDをネット通販で買うのとは異なる」との見解を示す。「保険は必要不可欠なものではない。意識の高い一部の層にとっては自発的にネットで買うだろうが、それ以外は、対人販売で勧められて買う形態は変わらない」と胸を張る。
ただ、長期的には少子高齢化の進行で、主力商品が死亡保障から医療保険に移り始めるなど、市場環境は大きく変わる。ネット生保はまだシェアは小さいが、商品特性が変われば販路も変わっていくのは必然だろう。護送船団が続き、2000年代初頭の自由化以降も閉塞感が残っていた日本の生命保険業界。ゆっくりだが着実に変わり始めている。
(文=編集部)