結婚式の引き出物「エンジェル宅配」、人気の理由…ネットビジネスの極意
さらなる絞り込み、持ち込み宅配へ
引き出物直送サービスは、他社でも簡単に実現できるものです。同じサービスを提供する競合他社が増えると、価格競争が再発することは目に見えています。そこで、絞り込んだターゲットに対して、さらに優位性を築くサービスを開発したいところです。そんなおり、新たなニーズを発見しました。それが「引き出物直送時の同梱」ニーズです。
引き出物は引き出物専門店や披露宴会場で購入するのが一般的です。しかし、なかにはご実家の農家で育てているお米を贈りたい方や、新郎の勤め先の商品を贈りたい方、手作りのお菓子を引き菓子として贈りたい方など、一般的に引き出物専門店では扱っていないものを贈りたい、という方がいることがわかりました。
そして、そういう方から、引き出物直送時に一緒に箱に入れて送ってほしい、という要望がありました。披露宴会場で引き出物を渡す場合には問題にならなかったことですが、直送するとなると、引き出物専門店にお米や手づくりのお菓子を一度届け、そこから各ゲスト用の箱に小分けして送らなければなりません。大変な手間がかかります。
野口さんはこのご要望をいただいたときに、新郎新婦のために無料でお受けしたそうです。もちろん、モノによっては賞味期限があるので、傷まないように、披露宴の前日に届けてもらい、当日中に小分けしてすぐに出荷する段取りをしたりしたそうです。大変手間のかかる作業です。普通ならお断りしても良いことだと思いますが、野口さんはこれを無料で引き受けていました。その理由は「一生に一度の日に、新郎新婦の願いをできるだけ叶えてあげたいから」。これを聞いて、誰にでもできることではなく、野口さんだからこそできることだと思いました。
そこで、私は、このサービスを有償で提供することを提案しました。一件あたり、1500円の手数料をいただくことを提案しました。「これだけ価格競争が激しいなかで、手数料をとったら売れるわけがない」。最初は反対した野口さんでしたが、サービスの価値の高さを改めて整理し、ご納得いただくことができました。注文件数全体の3割がこの「持ち込み宅配」になりました。
この持ち込み宅配サービスは単なる直送サービスと異なり、大変手間もかかりますし、トラブルのリスクもあります。責任者である野口さん自らが現場で指揮を執っているエンジェル宅配とは異なり、大勢でサービスを提供している大手では、リスクの高い要望を受けるかどうかの判断を現場で行うことは難しいでしょう。
また、直送サービスを利用する方だけのためのサービスですから、市場全体からみるとこれを求める方は全体の数%でしょう。大手の引き出物通販会社がわざわざ手を出すような市場規模ではないでしょう。しかし、求めている方はごく一部の方とはいえ、ニーズは見えています。このような、非常に絞り込まれたニーズを拾い集め、ひとつの市場として形成できるのがインターネットを活用することの醍醐味です。
(文=権成俊/ゴンウェブコンサルティング代表取締役)