「ネットが普及し、情報が簡単に手に入るようになった2000年代以降、書籍の売り上げは落ち続けています。ピーク時は初版8000部前後刷るのは当たり前でしたが、最近は初版4000部も珍しくない。それだけ出版社側も弱気になっているのですが、実は書籍の発行部数は減っていても発行点数はさほど変わっていないんです」(同)
「出版年鑑」(出版ニュース社)によると、01年に約7万1000点だった書籍の発行点数は16年に7万8000点と、横ばいどころか上昇している。本が売れない時代でも、発行点数は減らさない。つまり、部数より発行点数で売り上げを出そうと新書やビジネス書、芸能人本などを広く浅く量産しているのだと亀谷さんは言う。
「今は本の内容だけで勝負する余裕はない時代です。編集者も自分が作家を育てようとか、無名の作家を一から有名にしよう、なんて最初から思っていません。すでに火がつきかけているコンテンツに、どれだけ早く目をつけるか。そして、ある程度は売れる保証のある本をどれだけ量産できるか。そういう勝負なんです。そして、売れるかどうかを見極める際の目安のひとつがSNSのフォロワー数というわけです」(同)
小説は意外と書きやすい?
出版社や編集者が芸能人に執筆を依頼する理由はわかったが、芸能人側は小説を出すことでどんなメリットがあるのだろうか。
「あくまで臆測ですが、ひとつに小説はある種、書きやすいジャンルなのだと思います。ビジネス書のような実用的な本の場合、専門的な知識が必要となるだけでなく、表現や事実誤認に慎重に配慮しなければいけません。その点、小説は芸術なので表現の自由度が高く、極端に言えば好き勝手に書いたとしても、さほど問題になりません。本人も作家という肩書きが増えることで知的な印象が加わり、芸能人としてのイメージアップにもつながります」(同)
また、芸能人の持つストーリー性とフィクションの世界は親和性が高いという。
「芸能人の場合、すでに著者自身にストーリー的な要素があることがほとんど。夢を追って上京して……家庭環境で苦労して……など、それぞれの物語を持っている。さらに、自身の職業をからめた小説にすることでリアリティが増し、読者も感情移入しやすいのではないでしょうか」(同)