ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 演奏ミスが多い意外な場所とは?  > 2ページ目
NEW
篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」第51回

クラシック・オーケストラ演奏、実はミスが多い意外な場所とは?

文=篠崎靖男/指揮者

山をテーマにした名曲『アルプス交響曲』

 演奏家は、10回中9回成功しても「1回失敗したから」と、夜遅くまで練習を繰り返し、成功確率を限りなく100%になるように努力して、初日のリハーサルに向かいます。つまり、失敗のリスクを下げることに腐心するわけです。それは努力というよりも、「うまくできなかったらどうしよう」という恐怖感がそうさせると言ったほうが近いかもしれません。たとえば、指揮者のテンポが自分の想像していたものとまったく違っても、“最低限の完璧さ”を求められるからです。しかも、周りで演奏している同僚も音楽の専門家中の専門家ですから、どんな小さなミスでもばれてしまいます。指揮者の僕も、難しいリハーサルの前には、荷物をまとめて帰りたくなることもしょっちゅうあります。

 それでも、苦しんで困難を克服できたコンサートの後は、達成感も加わって本当に爽快です。それまでの苦労なんて、観客の盛大な拍手と一緒に忘れてしまいます。山登りで、頂上に着いたとたん、絶景に心を奪われ、それまでの苦しさを忘れてしまうこととよく似ていると思うのです。

 ところで、山をテーマにした名曲があります。これは、ドイツの大作曲家、リヒャルト・シュトラウスが1914年に作曲した『アルプス交響曲』です。この曲の舞台は、ドイツ・アルプス。正確には、フランスからスイスを通りオーストリアの東端まで貫いているアルプス山脈の北側になります。残念ながら、スイスのマッターホルンや、フランスのモンブランのような名峰がないために、あまり日本人観光客は訪れませんが、ドイツ人にとっては最高の避暑地のひとつです。

 この『アルプス交響曲』は、ドイツ・アルプス最高峰、ツークシュピッツェ山を音楽で登るというアイデアの作品です。ツークシュピッツェ山は標高2962mで、それほど高い山ではなく、現在では登山電車で頂上まで登ることができますが、その山頂までの光景がシュトラウスの『アルプス交響曲』とまったく同じです。シュトラウスは、今も実際に羊が群れている美しい牧草地帯をオーケストラ楽器ではないカウベルを使って表現したりしながら、滝や氷河を実際に見ているかのように錯覚させる音楽で描写しています。頂上の直前では、スリルと危険が入り混じったような音楽になるのも、実際の登山にそっくりです。そして頂上に到達した時には、すべてを忘れて登頂の喜びが溢れる。そんな山と音楽の融合を見事に表した名曲ですので、皆様も一度聴いてみてください。

 ちなみに、このシュトラウスは、山だけでなくなんでも音楽にしてしまう天才でした。本人の家庭をテーマにした『家庭交響曲』という曲もあり、ソプラノ歌手で騒がしい妻や、元気な子供、おじさん、おばさんまで登場しています。
(文=篠崎靖男/指揮者)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

●オフィシャル・ホームページ
篠﨑靖男オフィシャルサイト
●Facebook
Facebook

クラシック・オーケストラ演奏、実はミスが多い意外な場所とは?のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!