「おもてなし日本」の欺瞞…世界幸せな国ランク58位、「寛容性」は世界92位
イチローが引退しました。彼がオリックス・ブルーウェーブ(現オリックス・バファローズ)から、米シアトル・マリナーズに移ってプレーを始めた2001年は、ちょうど僕がアメリカに渡って仕事を始めた年です。そのため、イチローの快進撃が、多くのアメリカ人を魅了していたのを実際に見ていました。
イチローが引退を発表した日、アメリカ版のCNNのサイトを見ていると、イチロー引退のニュースが大きく出ており、彼のアメリカでの大偉業に、日本人として誇りを感じました。シアトル出身で、今はフィンランドのオーケストラのコンサートマスターをしている友人から話を聞いたのですが、「イチローは、その人間性、考え方も素晴らしい」と、人格的にも尊敬されているようです。
さて、CNNのサイトを見ていると、ひとつの記事が目にとまりました。今回、国連の諮問機関「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」が発表した、「2019年度世界幸せな国ランキング」です。昨年に引き続き、僕の第2の音楽的故郷であるフィンランドが堂々の1位を勝ち取りました。
このランキングは、所得、自由、信頼、健康寿命、社会的支援、寛容性という6項目を「幸せの指標」として、世界156カ国を毎年比較しています。ちなみに、ドナルド・トランプ大統領擁するアメリカは、今年はひとつ順位を下げて19位。所得は10位にもかかわらずランクを下げた原因は、保険制度をはじめとした社会的支援が37位と低いだけでなく、自由度61位が押し下げたことです。アメリカは“自由の国”というキャッチフレーズの国だけに、自由度61位は手厳しい評価です。
では、我が日本はといえば、昨年54位でした。これでも不名誉な話なのですが、今年はさらに4つも下げて58位。先進国のなかでも低いランクに入ってしまいました。この敗北理由は、所得でも健康寿命でもありません。健康寿命は2位という高ポイントを稼いでいるのにもかかわらず、7年前にこの調査が始まってから一度も40位を上回ったことがない大きな理由は、“ソーシャル・サポート”がとても低いことにあります。それは今回の調査でも92位で、順位に大きく響いています。
ソーシャル・サポートとは、つまりは他者に対しての寛大さや思いやりといっていいと思います。特に思いやりは日本人の美徳であるといわれ続けていますから、これこそ高得点を稼ぐはずなのですが、むしろ足を引っ張っていることに驚きました。しかし、考えてみると、たとえば、英国やオーストリアではよく目にした、バスに乗ろうとしている母親が押している乳母車を、ほかの乗客が当然のようにバスに引き上げるといった光景を、日本では見たことがありません。