続けて、「先生も人なのだから、それぞれ本当の自分自身を教室に持ち込むべきだ」というハワード博士。日本の学校では、教室の中に先生が「私」を持ち込むことを良しとはしない風潮があるから、ちょっと驚く。しかし、「それと同時に、生徒が自分の心を教室に持ち込めないなら価値はない」という言葉に、会場の空気が一変。講義が始まって数分で、参加者たちの顔つきが変化していく。
ニュージーランドが国として大切にしている教育の8つの価値とは
ニュージーランドでは、国として誰もが大事にするべき8つの価値を設定し、それを念頭において、すべての教科活動やカリキュラムが組まれている。価値としてあげられているのが、「卓越性、イノベーション・探究心・好奇心、多様性、公平さ、コニュニティと参加、環境保護とサスティナビリティ、誠実さ、敬意」の8つ。「卓越性」には、変化する時代に、自分自身でモチベーションを高く持ち続けられる忍耐力をつけることや、他人とかかわり、共同作業ができるソフトスキルや、共感、思いやり、尊敬といった価値も含んでいる。
さすが、未来教育指数(英誌 「エコノミスト」2017)世界1位に選ばれたニュージーランド。8つの価値は、人工知能(AI)やビッグデータなど新たな技術で社会が大きく変化している時代に、人に求められる項目が並んでいる。教師は常に今やっている授業が、どの価値につながっているのかを考えながらカリキュラムを組み立てるのだそうだ。
価値教育という耳慣れない言葉に一瞬戸惑ったが、日本でいえば新学習指導要領に掲げられている「ねらい」のようなものだろうか。
以前、新学習指導要領のねらいを紹介したが、そこには以下の記述がある。
「あれ、けっこういいことを書いてある」と思われただろうか。ただ、日本の先生は忙しくて、目の前のことをこなすので精一杯だから、このねらいがどこまで日常の授業や学校生活の中に反映されているかちょっと疑問だ。それに比べて、「なんのため」という目的の共有と振り返りができるシステムが構築されているのが、ニュージーランドの教育の特徴だろう。
先生自身が子供時代に体験した「よい教師」とは、自分を認めてくれた人だった
研修も中盤。次に出された問いが「自分が生徒だった頃を思い出し、好きだった先生がしてくれたことで良かったことを書き出す」というもの。最初は考え込んでいた様子だったが、次第に思い出話に花が咲き始める。各テーブルで共通に出てきたのは「信じてくれた」「ほめてくれた」「能力を引き出してくれた」「経験をさせてくれた」「全力で向き合ってくれた」「参加できる場をつくってくれた」「挑戦させてくれた」「えこひいきをしない」というような言葉。どのテーブルでも、何を教わったかではなく、教師のあり方を示すものが並ぶ。それぞれが書いた言葉をグルーピングしながら、教師として大事にすべき価値について考えていく参加者たち。