柴田氏は当時、「会社を買収したというよりも、人材を買った」と胸を張ったが、これは幻想だった。最終的にはリーマンの8000人の外人部隊を4000万円台の高給で雇った。「彼らがペイ以上の稼ぎをしなければ、すぐに赤字になることは子どもでもわかる。そして、現実にその懸念どおりになった」(野村HDの元役員)と内部でも批判の声が上がっている。
ホールセール部門(法人向け)の日本人社員までリーマン流の成果連動型の報酬体系に変えてしまったことで、「どう逆立ちしても利益が出ない高コスト体質になってしまった」(前出の元役員)という。
国内営業を知らない渡部、柴田両氏の2トップが「リーマン部隊が加われば野村は世界クラスの組織になる」という机上の空論を実践した結果が、野村HDの長期低迷を招いたといっても過言ではない。11年秋頃、「野村HDが三菱UFJフィナンシャル・グループに買収される」という噂が駆け巡ったが、赤字に陥ったことで、この観測が再燃する可能性もある。
日本郵政との軋轢
多くの営業マンを使って対面での顧客を増やし、大量の投資信託を販売したり、株式の注文を受けたりするのが野村証券の伝統的な営業スタイル。強固な営業力を武器に高い収益を誇ってきただけに、営業部門の社内での発言力も強かった。それゆえか、大胆な改革は実施されなかった。永井CEOは、そんな「聖域」に踏み込み、国内営業部門の本格改革に乗り出す。
だが、改革に乗り出した矢先に“ガリバー野村”の地位が揺るがすような事件が起きた。日本郵政が保有する、かんぽ生命保険株の売り出しの主幹事から野村証券が外れたのだ。全体を仕切るグローバル・コーディネーター(GC)は大和証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、JPモルガン証券の3社。GCに次ぐ主幹事にみずほ証券とメリルリンチ・インターナショナルを選んだ。
「野村外し」の理由として業界内でささやかれているのが、17年の野村不動産ホールディングスの買収交渉失敗だ。日本郵政はマンション開発に強みを持つ野村不動産を狙い、同社株を3割強保有する野村HDと交渉を重ねてきたが、価格面で折り合えず交渉は決裂。日本郵政には「はしごを外された」という恨みだけが残った。
野村HDは15年の日本郵政、かんぽ生命、ゆうちょ銀行のグループ3社の同時上場や、17年の郵政株の2次売り出しで、いずれもGCに入った実績がある。
だが、19年1月にかんぽ生命が初めて劣後債を発行した際、引受先は大和証券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の3社で、野村証券は外れた。今回で2連敗だ。
KDDIがカブドットコム証券に出資するなど異業種からの参入もある。バブル崩壊後の野村HDの収益力の低下は、証券市場の長期低迷の象徴でもある。
(文=編集部)