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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

フィリピン最大の銀行、極めて費用対効果低いのに、日本人客専門部署を設置した驚きの理由

文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer

 短期的には、新規顧客の獲得に加え、参加者へのアンケートから金融商品や資金運用などに興味のある客には営業を行い、売上を上げるということがある。しかしながら、それ以上に長期的視点に立ち、“頼りにされる存在になる”ことが大きな目標だという。

 個人向け部門が設立される前は、経済セミナーやゴルフ大会など日系法人向けのイベントのみであったが、個人部門設立後は手軽にいつでも銀行に足を踏み入れてもらえるように月に1回、同じ週の同じ曜日の昼休みに毎回題材を変えたセミナーを行っている。もっとも、こうした取り組みには国民性による違いがあるようで、韓国デスクなどは同じく限られた予算の中で、回数を抑えて、できる限り華やかなイベントを開催し、経済的に余裕のある韓国人主婦層の集客に努めているようである。

 また、ジャパンデスクが行うセミナーに関しては講師などで他部門の協力を得なければならないケースも少なくはないが、“ジャパンデスクのためなら一肌脱ごう”と言ってもらえる関係づくりに日頃から注力しているとのことであった。仕事において人間関係がとりわけ重要となるフィリピンにおいて、こうしたポイントは非常に重要になる。

【個人部門の役割3】法人部門への貢献

 法人向けのジャパンデスクは、ほかの銀行でも設置されている。よって、日系企業を対象とした顧客獲得は熾烈な競争となるが、こうした日系企業への営業活動でも個人部門のメンバーが同行することもあり、それによってより効果を発揮することもある。商談においては、BDOが個人向けにもヘルプデスクを設置しており、企業の取引にとどまらず、従業員や家族のサポートも丁寧に行うことができる点を強く訴求している。また、逆に個人の取引が企業間の取引に発展する場合も少なくないようである。

マーケティングからの視点

 BDOジャパンデスクの個人部門は口座数、預金高、貸付高、金融商品の売上といった単純な指標から捉えれば、費用対効果が極めて低い取り組みである。しかしながら、日本人をはじめ先進国の客との取引により、銀行全体のサービスを高めるという狙いは、今後のグローバル競争時代において重要なポイントであるといえるだろう。さらに、法人契約への好意的な影響をも考慮している点は、非常に戦略的であるといえる。

 マーケティングにおいては従来、新規顧客の獲得(取引時点)のみが重視されてきたが、近年、既存顧客との関係性の構築・維持(取引前後)を重視する関係性マーケティングに注力すべきであるといわれている。BDOジャパンデスクの“頼りにされる存在になる”という目標および、そのための一連の取り組みは、関係性マーケティングの好例として大変興味深い。

 また、マーケティング分野において、しきりにその重要性が叫ばれるブランドに関しても、真に強いブランドを構築するためには、こうした地道な努力を組織レベルで日々重ねることが王道であるといえるだろう。
(文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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