前述の通り、日本の企業の経営者が手本としたウエルチの手法は主に2つある。ひとつは「選択と集中」。もうひとつは「ダウンサイジング」と呼ぶ大規模な整理・解雇だ。世界を相手にして競争に勝ち残ろうとするなら、GEは変わらなければならないとウエルチは考え、宣言した。
「GEを世界で最高の価値を持つ企業にする。そのためには利益の出ない分野をすべて切り捨てる。将来、すべてのGEの事業は、その業界でナンバーワンあるいはナンバーツーの立場を確保しなければならない」
そして経営の重点をサービス業へと転換させることによって、1000といわれる多数の新事業を生み出した。他方、70の事業は他企業へ売却するか撤退した。
ウエルチは、ナンバーワンとナンバーツーの事業に注力する理由をこう語っている。
「市場で4位か5位でいると、No.1がくしゃみしただけで肺炎にかかってしまう。No.1なら、自分の命運をコントロールできる。第4位の連中は合併に明け暮れ、苦しむ。苦しむことが仕事になってしまう」
次にウエルチは組織構造にメスを入れた。組織の贅肉を切り落とし、個々の事業部門を筋肉質に変え、GE全体の権限の分散化を推進した。入社以来、目の敵にしてきた官僚システムの解体である。「戦え、憎め、蹴り飛ばせ、破壊しろ」。ウエルチは公然とこう言った。長い年月をかけて念入りにつくり上げられた管理階層はごみ箱に捨てられたのである。結果、20万人近いGEの従業員が会社を去り、60億ドル以上の経費を削減した。凄まじいリストラだ。「建物を壊さずに人間のみを殺す中性子爆弾」の特性になぞらえて、「ニュートロン(中性子爆弾)ジャック」と綽名された。
ウエルチの経営改革は株式市場で高い評価を得た。81年3月から99年11月までの期間に、GEの株価はわずか4ドルから133ドル(4回の株式分割を織り込んだ修正値)になった。同じ時期、GEの売上高は272億ドルから1732億ドルに伸び、利益は16億ドルから107億ドルに増加した。99年、米フォーチュン誌は「20世紀最高の経営者」の称号を彼に授与した。
(文=編集部/敬称略)