(「Wikipedia」より)
この「選択と集中」には2つのリスクがある。1つは、当たり外れが大きいということだ。特定分野に特化するということは、外部環境の変化に大きく左右されることがある。一発当たれば儲けは大きいが、ハイリスク・ハイリターンの戦略なのである。
2つ目は短期決戦型である点だ。長期的な視野に立った経営には向いていない。儲かっている事業だけやって、儲からない事業は切り捨てるわけだから、4~5年のスパンで業績を向上させるのには適している。だが、特定の事業だけで長期的に高収益を維持するのは至難の業だ。将来儲かるかもしれない新規事業の芽を摘み、縮小均衡に陥る危険を、常にはらんでいる。
東芝のケースで見るとわかりやすい。
「選択と集中」を推進した西田厚聰社長(当時、現会長)は、2006年2月、米原子力プラント大手・ウェスチングハウス社(WH)の買収を行った。当初はWH社と古くから取引関係がある三菱重工業が買収元候補として本命だったが、東芝は、想定をはるかに超える6200億円の買収価格を提示し、大逆転に成功した。
そして東芝は、半導体と原子力発電を経営の二本柱に掲げた。両事業に経営資源を集中する一方、音楽事業の東芝EMIや銀座東芝ビルを売却。第三世代の光ディスクHD DVD事業から撤退した。
東芝は総合電機だが、圧倒的にナンバーワンといえる分野はなかった。「選択と集中」を進めた結果、半導体は国内首位で世界3位(いずれも当時)、原発は世界首位に躍り出て、鮮やかな転進はメディアから高く評価された。
しかし、西田には新たな難関が浮かび上がった。半導体も原子力発電所も特有のリスクが付きまとう、ハイリスク・ハイリターンのビジネスなのだ。
半導体事業は価格と需要の変動が激しい。リーマン・ショック後の需要の急減によって価格が70%も下落。東芝の半導体事業は巨額な赤字に転落した。このため09年3月期は3435億円の最終赤字となった。西田は社長を辞任して会長に退いた。後任社長には、経営のもう一方の柱である原子力事業出身の佐々木則夫が就任した。
原子力発電所は一基つくれば、そのメンテナンスなどで継続的な収益の見込めるおいしいビジネスだが、原発事故というリスクと背中合わせである。11年3月11日の東京電力福島第一原子力発電所の事故で、原発ビジネスは暗礁に乗り上げてしまった。
●縮小均衡のワナ
東芝の13年3月期連結決算(米国会計基準)は、「選択と集中」の結果を示す通信簿となった。売上高は前期比4.9%減の5兆8002億円、本業の儲けを示す営業利益は4.1%減の1943億円で、2年連続の減収減益である。
売上高が6兆円に届かなかったのは、05年3月期以来、8年ぶりのことだ。リーマン・ショック後、東芝は社長の佐々木の下、中小型液晶や携帯電話などの不振事業の売却を進め、経営体質の強化を図ったが、縮小均衡に陥った。
東芝の「選択と集中」は、注力した半導体と原子力発電事業があまりにもハイリスクなビジネスであったため失敗した。しかも不採算事業を切り捨てる過程で、新しい事業の芽を摘んでしまった。そして経営のカジ取りの責任を誰が取るべきなのかをめぐり、西田、佐々木両首脳は泥仕合を演じた。
「選択と集中」は、多角化を進め肥大化した事業を整理する短期決戦には向いているが、次の世代の柱となるような事業を育てる中長期戦には向かない。新しい事業の種まきには赤字の覚悟が必要で、根気もいる。“健全な赤字”を許容する覚悟が必要なのだ。
(敬称略/文=編集部)