売上高は前年同期比11%増の8970億円。6月後半の猛暑でエアコンの売り上げが伸びたほか、白物家電が堅調。ベスト電器を子会社にしたことも売上増に寄与した。
中国の店舗は5月に南京店、6月に天津店を閉鎖。中国進出1号店の瀋陽店を残すだけとなった。瀋陽店は撤退できない理由がある。南京店、天津店は賃貸物件だが瀋陽店は持ちビル。高値づかみした物件を売ると不動産の売却損が生じて、決算に大きな影響を与える。業績が回復するまで売りたくても売れないのだ。
中国での5店舗の新規出店計画をあきらめざるを得なくなったのは、ヤマダという社名が影響しているといわれている。「ヤマダという社名が、中国のテレビで盛んに放映されている抗日ドラマに出てくる日本兵の名前(山田)を連想させる。消費者が拒否反応を示したことが、中国での不振の原因の一つとなった」というのだ。
4~9月期の決算で注目されたのは、本業の儲けを示す営業利益が24億円の赤字(前年同期は213億の黒字)となったことだ。営業赤字は1989年の上場以来初めてのことだ。
11年10月にTOB(株式公開買い付け)で中堅住宅メーカーのエス・バイ・エルを買収したが、同社は業績不振が続いている。1997年3月期に1806億円あった売上が13年2月期(12年に決算期を2月に変更)は398億円まで減少した。松田佳紀・ヤマダ副社長を社長に送り込み、社名をヤマダ・エスバイエルホームに変更。営業・宣伝の拠点として約200店のヤマダ電機店内に「住まい専用ブース」を設置し、18年2月期に現在の5倍の2000億円の売上を目指すとしてきた。
しかし、ヤマダ・エスバイエルホームは14年2月期の連結業績予想を10月7日に下方修正した。売上高は従来予想より25億円少ない535億円(前期は398億6000万円)。営業利益は8億4500万円少ない3億5000万円の黒字(同6億6400万円の赤字)、当期純利益も8億1000万円少ない2億円の黒字(同7億9200万円の赤字)と大幅な下方修正となった。これを受け同社は、東日本エリアの労務費高騰で、予定していた利益確保が困難になったと説明した。
●台頭するネット通販
ヤマダの営業赤字は、住宅関連事業の不振だけが原因ではない。もっと大きな要因は、粗利益率が前年同期の25.1%から22.5%に2.6ポイントも低下したことによる。その理由について同社は、「(家電製品の価格比較サイト)価格.comへのデータ提供で価格競争が激化したため」と説明している。
ネット通販の台頭で、経営環境が激変したことが背景にある。11年7月に地上デジタル放送への移行が完了。家電量販店はテレビ特需の反動減に見舞われた。しかし、これは織り込み済みで、ヤマダでは12年7月には特需の反動による売り上げ減が一巡して、その後は、徐々に回復していくと想定していた。
13年4月度から月次情報の集計方法を変更しているため(携帯電話を除外)、前年との比較はできないが、同社の発表によると4~9月の既存店売り上げは4.5%増、全店売上は8.5%増となっている。9月からベスト電器の売り上げも含めており、4~8月についても同じ基準で再度計上し直している。
この1年間に「ショールーミング」と呼ばれる新しい消費行動が顕著になったことがヤマダの業績を直撃した。消費者は品揃えが豊富な家電量販店の店頭に行き、商品を実際に触って確かめ、スマートフォーン(スマホ)を使って価格.comで同じ商品を安く販売している店を調べ、ネットで買う。若者を中心に広がっている購買のパターンだ。
店舗のショールーム化に対応するため、ヤマダは価格の決定権を店長など現場に与えた。来店した客が価格.comの最安値を提示して「もっとまけろ」と要求したら、店長は価格.comの水準まで値下げして売った。店長に裁量権を与えたことによって、店舗によって売り値がバラバラになってしまった。現場の混乱が粗利益をストレートに低下させた。中国店閉鎖の特別損失を吸収できずに赤字に転落したのは、販売最前線で戦う態勢が取れなくなったからだ。
●低迷する株価
粗利益率の低下や営業利益の減少は、一時的なものではない。14年3月期の通期見通しは、売上を520億円引き下げ前期比11%増の1兆8890億円、純利益は157億円下方修正して同64%減の81億円を見込む。
株価は9月6日、2872円と3000円の大台を割り込み、年初来の安値を更新した。年初来高値4980円(4月22日)より42%下げた。9月末に株式を10分割(1株を10株にした。理論株価は10分の1)した後の株価の推移は、10月15日に258円の安値をつけた(10分割後の高値は10月1日の299円)。株式分割を考慮したベースの株価は、03年8月以来、10年ぶりの安値圏に沈んだ。破竹の快進撃を続けていた2000年代後半には株価は1万5590円(06年1月10日、10分割後で換算すると1559円)を実現したが、いまではその2割にも満たない。
果たしてヤマダは苦境を乗り越えることができるのか? 市場の注目が集まっている。
(文=編集部)