三木谷会長が直々に楽天加盟店へ営業…楽天モバイル、23年中の黒字化が困難な理由
「楽天モバイル」がサービス開始して早3年が経過した。毎月のデータ使用量によって支払金額が変わり、月々3GBまでであれば980円(税抜き、以下同)、どれだけ使っても2980円と格安SIM並みの破格の料金設定が特徴的だ。
そんな楽天モバイルだが、業績に関しては芳しくない結果が続いている。楽天グループの2022年12月期決算は、売上高にあたる売上収益は過去最高の1兆9278億7800万円を記録したものの、楽天モバイルの赤字が大きく足を引っ張っているため、最終損益は3728億8400万円の赤字。基地局整備はかなり前倒しで進めたが、それでもエリア展開の不足が指摘されており、基地局整備への先行投資が業績に影響を与えている。
楽天は当初からモバイル事業の2023年中の単月黒字化を掲げている。今年は正念場となることが予想され、事業の軌道化に向けて楽天は積極的な姿勢を見せている。なかでも象徴的だったのは、1月26日に行われた楽天市場加盟店を対象とした「楽天新春カンファレンス2023」において、楽天グループの三木谷浩史会長兼社長が直々に法人向けのプランの契約を呼びかけたこと。同サービスは1月30日から提供開始しているが、このトップ直々の「営業」からもわかるように、楽天モバイルは今年勝負を仕掛けるつもりだろう。果たして黒字化は達成できるのだろうか。ITジャーナリストの法林岳之氏に話を聞いた。
基地局整備も完全とはいえない
楽天モバイルの契約者数は、22年12月時点でMNO(自社回線)とMVNO(格安SIM)の合計契約者数が506万回線となっており、9月時点の518万から減少するかたちとなった。MNOの契約回線数は、22年11月の約445万回線から23年1月には約452万回線に増加したが、総契約者の総数としては依然減少傾向にある。
「サービス開始以来、順調に契約者数を伸ばしていたのですが、昨年7月に目玉プランだった『1GB以下0円』を廃止したことで、解約者が続出したことは事実でしょう。ただ、契約者数が減っているものの、楽天側としては楽天カード、楽天市場など楽天経済圏の利用者にメリットのある施策を打ち出しているので、今後、さらに劇的に契約者数が減るようなことは起きなさそうです」(法林氏)
たとえば、楽天モバイルのユーザーが楽天市場で買い物をすると、ポイント還元サービス「SPU」(スーパーポイントアップ)の楽天ポイントがプラス1倍となり、お得にポイントを貯められるようになっている。楽天グループのサービスを頻繁に利用するユーザーにとっては、たしかに楽天モバイルを契約するメリットはあるだろう。ただ楽天ユーザーにメリットがあるとはいえ、楽天モバイルは、サービス開始から現在まで、エリア展開の不足により、スムーズにサービスを利用できる環境を提供できているとはいいがたい。
「まだサービス開始から3年ですし、免許取得前に基地局は作っていたわけではないので、基地局が足りないのは当然でしょう。むしろ、20年以上にもわたって基地局を整備してきたNTTドコモ、au(KDDI)、ソフトバンクの大手キャリア3社と比べると、わずか3年で、ここまで展開できたのは健闘しているほうだと思います。エリア拡大は地道な作業であり、一朝一夕で完成するものではないため、引き続き基地局整備への投資は行っていくしかないでしょう。主要3社並みのネットワークを構築し、同等の事業規模でサービスを展開できるようになるには、やはり、相応の年数がかかると思われます」(同)
目標の年内の単月黒字化はやはり厳しいか
三木谷氏が言及した楽天モバイルの法人プラン。ネット上では、苦境に立たされた楽天モバイルの焦りという見方も強い。
「焦りはそこまでないと考えられます。新春カンファレンスは楽天市場に参加する事業者向けのイベントですので、自社のサービスを会社のトップが紹介するのはなんら不自然なことではありません。赤字が続いているとはいえ、首が締まるほど危機的な経営状況ではないと思われるので、騒ぎ立てるのは早計ですね。ただ一方で、法人向けプランの提供は出遅れ感も否めません。やはり個人向けのプランと同程度のタイミングで提供を開始し、サービスの認知度を広げていくべきでした」(同)
ほかにも楽天モバイルの懸案事項は少なくない。たとえば、楽天モバイルが競合他社からシェアを奪うには携帯電話サービスの信頼と評価を上げていくほかないわけだが、それにもかかわらず楽天モバイルは企業イメージや姿勢に問題があるという。
「三木谷氏は2019年に他社が通信障害を起こしたとき、『楽天モバイルでは大規模な通信障害はあり得ない』と豪語していたのですが、昨年9月に通信障害を起こしてしまいました。auも昨年7月に3日間にわたる大規模な通信障害を起こしましたが、携帯電話サービスが十分に普及したauと、これからもっとエリアを拡充し、サービスを成長させなければならない楽天モバイルとでは、フェーズがまったく違いますからね。それに楽天に限らず、他社を揶揄するような言い回しで自社が優れているとアピールする姿勢はあまりイメージが良くないですし、ましてや後発サービスで、エリアも物足りない途上中の楽天モバイルがそんな失言をしてしまっては、顧客からの信頼は得られないと思いますよ」(同)
三木谷氏の強い意向でモバイル事業に乗り出している楽天。モバイル事業への投資のせいで赤字が続いており、グループ内からの反発も予想される。
「もちろん他部門からの反発は大きいと思います。そもそも楽天グループは人の出入りが激しいと聞いており、常に人材は流動的になっているようですので、今後の楽天モバイルの状況次第で人材流出が続いたとしても不思議ではありません。ただモバイル事業への参入にあたり、会社としては設備をはじめ、集中的に投資をしていて、簡単には引き返せない状況にあります。また、インターネットの主流はモバイルですし、通信量という定期的な収入も得られることもモバイル事業を展開するメリットのひとつです。そのため、このまま赤字が続いていてもすぐに撤退する可能性は低いでしょう。もし撤退するとすれば、経営陣の判断ではなく、株主などのステークホルダーが声を上げていき、その結果、撤退せざるを得ない状況に追い込まれたときではないでしょうか」(同)
だがそんな状況で、かねてより掲げていた23年中の単月黒字化を達成できるのか。
「個人的には達成は非常に厳しいと思っています。楽天としても、事業計画の段階で黒字化を掲げているので、投資家などの手前、黒字化に全力で取り組むと思いますが、いまの状況から考えると達成はかなり難しそうです。『1GB以下円』廃止に代表されるように、サービス開始から3年間で楽天モバイルが打ち出した施策は、そこまでうまくいっていない印象ですからね。
楽天グループがモバイル事業を軌道に乗せるためには、やはり楽天経済圏という最大の強みを活かす施策が必要不可欠なので、楽天グループ内の各事業との連携強化は最優先で図るべきです。このほかにもエリアの拡充に継続して取り組む必要がありますし、幅広いユーザーからの信頼を得ていくことも大切です。
現在、総務省で2024年春頃をめどに、新しいプラチナバンド(800MHz前後の周波数帯域)を割り当てる計画があり、後発である楽天モバイルに優先的に割り当てようとする動きがあります。楽天モバイルとしては『プラチナバンドが割り当てられれば、エリア問題は解決する』としていますが、新しい周波数帯のために基地局やアンテナを整備する必要があります。既存の基地局の場所も活用できますが、工事などのコストがかかるため、すぐに収益が改善するわけではありません。いずれにせよ、将来的に楽天モバイルが黒字化を実現するには、エリアや端末ラインアップ、サービス内容をしっかりと拡充し、幅広いユーザーに認められるように、地道に取り組んでいくしかないでしょう」(同)
(取材・文=文月/A4studio、協力=法林岳之/ITジャーナリスト)