訴状や判決文、証拠書類などによると、原告の堀田元也氏(50代、仮名)は次のように主張している。堀田氏は1996年、弁当チェーン「ほっかほっか亭」に入社し、直営店舗担当課長や総務部庶務課長など経て、2004年のプレナスによる吸収合併後は人事部労務部厚生課のサブリーダーとして東京事務所に勤務した。11年には会社の「永年表彰」を受賞し、当時の人事部長(12年から取締役営業統括本部長)から表彰された。
そんな順風満帆な堀田氏の人生が一変したのは同年9月1日。午前中、翌年3月に支給される「退職一時金」の予定額が、各社員のパソコン上で告知された。これは国の方針によりプレナスの適格退職年金制度が廃止になり、確定拠出年金制度に移管することに伴う措置だった。堀田氏のパソコンには、「退職金予定額」として「会社都合退職での退職金支給額212万円」と記載してあった。
同日、堀田氏は13時からのテレビ会議に出席し、終了後に同僚のM氏と退職金の話をした際に、旧ほっかほっか亭の退職金規定のコピーをもらった。同規定によると、旧ほっかほっか亭の退職金の種別は「定年退職一時金」と「中途退職一時金」の2種類しかなく、告知された212万円は低いほうの「中途退職一時金」の額であり、高いほうの「定年退職一時金」で計算すると、堀田氏のキャリアで退職した場合の退職金は240万円だった。その一方、プレナスの退職金の規定では「自己都合」「会社都合」の2種類であるが、旧ほっかほっか亭吸収前からプレナスに在籍する社員(プロパー社員)の退職金は高いほうの「会社都合」で計算されていたのだ。
疑問を抱いた堀田氏は、福岡本社の人事部課長・F氏に電話し、「提示された退職金額には間違いがある。会社都合ではなく自己都合退職の金額となっており、旧ほっかほっか亭の社員が大騒ぎになっている」と不満を述べたが、F課長は「現状の年金資産状況では難しい」などと説明した。
納得できなかった堀田氏は、旧ほっかほっか亭社員など約20人にメールを送り、一連の経緯を説明し、「みなさん、どう思われますか? ちなみに、退職金規定では、プレナス社員として記載されており、その内容で計算すると、500万円以上になります」。
要するに、プレナスのプロパー社員の退職金は、旧ほっかほっか社員の倍以上だったのだ。
●執拗に退職を迫る人事部長
翌2日、本社人事部のN氏から堀田氏へ電話があった。堀田氏は東京事務所の旧ほっかほっか亭社員向けの退職金制度変更に関する説明会の担当者だったが、N氏は堀田氏に対し「昨日のようなメールをする者には説明会を任せられない」「明日午前11時までに、K部長の元へ出頭するように」と指示した。翌日、堀田氏は福岡本社の会議室でK部長と面談した。K部長は「人事部の者が、説明会担当者が、つまらんメールして不安や不満をあおるような真似をしていいと思ったのか?」「人事部として不適格。もう、あんた、いらない。信用できないし、信頼もしない。辞めたら? 退職願書いたら? 退職届持ってくるから、今書いたら? 印鑑持ってる?」と詰め寄った。これを受け堀田氏は、「人事部で働く者として軽率でした。なんとか働かせてください」と謝罪した。