世界で電気自動車(EV)シフトが遅れ、自動車メーカー各社はEV戦略の見直しを相次いで表明している。一方、ここへきてハイブリッド車(HV)の販売がEV以上に伸びており、EVに懐疑的な姿勢を見せてHVの開発に注力してきたトヨタ自動車に対し「やはりトヨタが正しかったのではないか」という声も広まっている。
欧州は2035年までに全ての新車をEVなどのゼロエミッション車(ZEV)にするという方針を掲げており、米国の一部州も同様の方針を決めている。日本も35年までに全新車を電動車にする方針を掲げるなど、EVシフトは世界的潮流でもあった。この流れに自動車メーカー各社も対応。独メルセデスベンツは2020年代の終わりまでに全車種を完全電気自動車(BEV)にするとし、米ゼネラル・モーターズ(GM)は35年までに販売する全乗用車をEVにすると表明。独フォルクスワーゲン(VW)は世界におけるEVの販売比率を30年までに50%にするとしている。
日本勢も、マツダは30年までに全販売に占めるEVの比率を25〜40%に、ホンダは40年までにEV・燃料電池自動車(FCV)販売比率をグローバルで100%に、日産自動車は欧州市場において26年度における電動車両の販売比率を98%にする方針を決定。
一方、EV普及に懐疑的な姿勢を見せてきたトヨタは、26年までに世界で年間150万台のEVを販売する目標を公表しているが、豊田章男会長は1月の講演で「いくらBEV(バッテリー式電気自動車)が進んだとしても市場シェアの3割だと思う」「エンジン車は必ず残る」と語るなど、EVへの過度な期待を避けている。
そんなトヨタの姿勢を正当化するかのように、EVの成長は早くも鈍化。2月8日付日本経済新聞記事によれば、欧州市場の22年から23年にかけてのEV販売の伸びは2.5ポイントであるのに対し、HV(HEVのみ)のそれは3.1ポイントとHVのほうが上回っている。また、23年の新車販売に占めるHVの比率は33.5%なのに対し、EVは14.6%にとどまっている。そしてガソリン車の占める比率の下落率は縮小傾向にあり、22年から23年にかけては1.1ポイントの下落にとどまり、23年時点でも新車販売の35.3%を占めている。そして、エンジン車とハイブリッド車を合計した「エンジン搭載車」の比率は同年時点で82.4%となっており、脱エンジン車を掲げる欧州ですら、いまだ新車販売の8割がエンジン車となっているという。
こうした現状を受け、自動車メーカーも方針転換をあらわにしている。30年に完全電動化をするとしていたメルセデスベンツはこれを撤回し、新型エンジンの開発に着手。GMはプラグインハイブリッド車(PHV)の生産再開の検討に入ったと伝えられており、ミシガン州の工場での電動ピックアップトラックの生産拡大の延期を発表している。
そして世界を驚かせたのが、アップルのEV開発からの撤退だ。アップルは2010年代の半ばから完全自動化機能を搭載するEV「アップルカー」の開発に取り組んでいたが、先月に中止が明らかとなった。
「アップルが10年かかっても製品化に至らず開発中止に追い込まれるほど、車の開発・製造というのは難易度が高い。アップルが開発を中止したのは、技術的な問題もあるだろうが、EV市場の将来性に懐疑的になった面もあるのでは。大きな成長が見込めないEVよりも生成AI(人工知能)などの分野にリソースを割いていったほうがよいと判断したのだろう」(自動車業界関係者)
EV一辺倒からの脱却は各国政府でも進んでいる。ドイツは23年12月にEV補助金の支給を停止。中国も中央政府によるEV購入の補助金を22年末に停止している。
伸びるHV
そんなEV失速を尻目に伸びているのはHVだ。調査会社のマークラインズによると、主要14カ国の23年のHV販売台数は前年比30%増の421万台で、増加率ではEVとPHVの合計である28%増を上回った。
HVに強い日本の自動車メーカーにとっては追い風だ。トヨタの23年のHV販売台数は344万台であり、前年比32%増。23年4-12月の全新車販売(790万8000台)のうちHVの占める比率は33%にまで上昇し、利益率の高いHVの販売増も影響して、24年3月期連結決算(国際会計基準)の純利益は過去最高の4兆5000億円になる見通し。
「EVが普及しない一番の要因は、その高額な費用。世界シェア2位のテスラだと平均600万円もするが、トヨタのHVであれば100万円台からある。このほか、EVは充電時間が長く、ガソリン車のようにぱっと給油するわけにはいかない。充電設備も少なく、現実的には車庫と充電設備がある戸建て住宅ではないと厳しいため、購入層は限られてくる。HVなら充電そのものが不要。あらゆる面でHVのほうが優れているのは明らかで、やはり世界の自動車の主流がEVになるというのは現実的ではない。そのあたりのことをトヨタは十分に理解して商品開発戦略を立てており、先見の明があったということ」(自動車業界関係者)
別の自動車業界関係者はいう。
「原材料の採掘から製造、廃棄まで全工程を比べれば、EVのほうがエンジン車より何倍も二酸化炭素排出量やエネルギー消費量、鉱物資源の消費量は多く、『EVのほうが環境負荷が低くてクリーン』という謳い文句が嘘だということは、すでに広く知られている。また、世界のEV市場ではすでに中国のBYDがテスラを抜いてシェア1位となっているが、EV推進により自動車市場で中国勢が台頭していることに対し、米国と欧州で危機感が高まっており、各国政府がEV一辺倒の路線を転換させるのは時間の問題だとみられている」
(文=Business Journal編集部)