JR東日本水戸支社の区報に、人身事故に遭遇した最年少記録を更新した男性運転士が「歴史に残る記録を作った(笑)」などと、事故を茶化すようなコメントをしている記事が掲載され、批判が殺到した。同社に聞くと、初めて作成した区報だったという。
JR東日本水戸支社の運転士と車掌約200人が所属する土浦運輸区の区報として5月20日、同支社の管内で発生した人身事故について、当該車両の運転士にインタビューする記事が掲載された。インタビュアーが「率直な感想は?」と質問すると、「やってもうた」と回答。続けて、「最年少記録の気持ちは?」との問いに、「歴史に残る記録を作った(笑)」などと答えていた。
一連の経緯が複数のメディアで報じられ、SNSを中心にJR東に対して批判の声が殺到。そのほとんどは、運転士ではなく、インタビュアーや記事掲載を認めた管理者、そしてJR東に対して向けられている。
「最年少記録の気持ちは?なんて聞き方がおかしい」
「人身事故に遭遇した運転士は精神的に大きなダメージが残る。それをほじくるようなインタビューをするのは企業として問題」
「管理者はなぜこれがダメだと気づかないのか。人としての倫理観が欠如している」
など、記事の製作側には厳しい声が飛んでいるが、運転士に対しては、「茶化すくらい開き直らないと精神の均衡が保てないのではないか」と擁護する声が多い。
Business Journal編集部は、この記事の製作過程についてJR東水戸支社の広報室に話を聞いた。
――問題になった区報は、どのような媒体なのでしょうか。
広報担当「その時々において起こった出来事などをピックアップして、職場内で情報を共有するためのものです」
――では職場外の方は見られないものなのですね。
広報担当「はい。職場内の者のみが閲覧可能です」
――今回、問題となった記事の製作の経緯を教えてください。
広報担当「実は土浦運輸区の初めての区報だったのです。広報委員会の者が記事をつくり、管理者がチェックをしたのですが、体制が不十分でした」
――批判の声は運転士ではなく、記事の作成者や管理者に対するものが多いようです。
広報担当「その通りです。再発防止とコンプライアンスの徹底に努めます」
――運転士に対しては同情的な声も多いですが、今回の事を受けて、当該運転士がなんらかの処分を受けたりすることはないでしょうか。
広報担当「職場の規則にのっとり対処いたします」
区報は運輸区ごとに製作されており、管理者を含む「広報委員会」が製作する。土浦運輸区では初めての記事だったといい、5月20日から職場内関係者のみが閲覧できるデジタルサイネージのほか、職場内用チャットツールでも閲覧できる状態だった。同委員会の管理者はインタビュー記事の内容も確認していたが、「社員同士の誹謗(ひぼう)中傷ではない」として掲載を許可。他の管理者の指摘を受けて、23日に削除したという。
別の鉄道会社で運転士をしている男性は、JR東の体質を疑問視する。
「鉄道の人身事故は、信号機を無視した場合など重大な過失を除き、運転士に非がないことがほとんどです。今回の場合、インタビューを受けるくらいですから、避けようがない事故に遭遇した運転士だったと考えられます。しかし、“最年少記録”などと茶化すインタビューをした記者の認識や、その記事に違和感を持たない管理者に異常性を感じます。不適切ではありますが、お酒の場でそんな表現が出るくらいなら理解もできます。それが、区報とはいえ多数の人が閲覧する場に掲載したのは、あまりにも軽率です。
人身事故に遭った運転士は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患う方も少なくありません。私のまわりにも事故を経験した運転士がおり、先輩や上司からは『蛇を踏んだくらいに考えて割り切れ』と慰められたりしています。仮にそのようにして心の平静を保つにしても、事故で亡くなった方の親族や知人などの耳目に触れないように、軽々しい発言はするべきではないと思います」
JR東は、再発防止と社員教育の徹底をするとのコメントを出している。
(文=Business Journal編集部)