1月23日に発生した停電による新幹線の運転見合わせに際し、JR東日本がわずか1時間で臨時の快速列車を運行させたことで、その判断を称賛する声が相次いだ。新幹線が停電によって運転を見合わせるという事態は非常に異例であるが、このJR東の対応がどれほどすごいことなのか、専門家に話を聞いた。
事故は1月23日9時58分ごろ、東北新幹線上野~小山駅間、上越・北陸新幹線上野~熊谷駅間の上下線に停電が生じ、東北新幹線は東京~仙台駅間の上下線、上越新幹線と北陸新幹線は東京~高崎駅間の上下線で終日運休し、12万人に影響が出た。
JR東によると、架線を張るための重りの一部が破損して架線が垂れ、列車が通過した際にパンタグラフが破損するなどして停電した可能性があるとしている。
普及作業中に作業員が感電する事故が起きたことも響き、復旧に時間がかかったことは議論の余地を残している。
一方で、臨時列車をいち早く走らせたことに称賛の声が集まっている。たった1時間で代替手段としての快速列車を走らせるといった対応は、過去に例があるのだろうか。また、他社では、同様の事例は珍しいのだろうか。
「常磐線の臨時快速は2021年2月13日に発生した福島沖地震、翌2022年3月16日に発生したやはり福島沖地震のときにも運転されています。どちらも地震は夜23時台に起き、常磐線に臨時快速が運転されたのは翌日以降でしたので、今回、約47分後の品川10時45分発の『ひたち9号』を、いわき行きから仙台行きへと変更したことは異例の早さで過去に例はないと思います。具体的には他の鉄道会社への振替輸送の開始ですら、このくらいの時間を要したケースもあるからです。
新幹線の代替手段となった在来線とは逆に、新幹線が代替手段となったケースもあります。2018年7月8日夜の豪雨でJR西日本山陽線は三原~海田市(かいたいち)間が長期間不通となり、国道も通行止めとなったため、翌7月9日から9月8日まで山陽新幹線三原~東広島~広島間で代替輸送を実施しました。山陽線の定期券を持っていれば特急券なしで利用できました」(鉄道ジャーナリストの梅原淳氏)
複雑なダイヤグラムを組んでいるJRで、臨時列車を走らせることは、どれほど大変なことなのだろうか。
「常磐線では福島沖地震で臨時快速を運転したことがあり、あらかじめダイヤグラムが作成されていて、一から作成するよりもスムーズに移行できました。常磐線いわき~岩沼間は大多数が単線区間なので、何もないところからダイヤグラムを組むには行き違い駅の調整などとても1時間では運転できなかったと思います。とはいえ、車両のやりくりはもちろん、乗務員の手配も行わなくてはなりませんので、やはり大変です。今日、ダイヤグラムが乱れて新たなダイヤグラムを組む際にはコンピューターが活用されていて、ダイヤグラムを臨時に変更しますと、対象となる各駅、車両保守部門、乗務員管理部門、線路・設備管理部門に一斉に連絡が行き、その変更に応じて各部門でもコンピューターによって新たな保守・管理計画が作成されます」(同)
一方で、大宮以北の列車を走らせることはできたはずなのに、しばらく止まっていたことに不満の声もある。このあたりは、実務上、判断が難しいのだろうか。
「新幹線の大宮駅はホーム3面に線路6線が設けられており、ホーム2面に線路4線を備えた東京駅や上野駅よりも線路が多く、一見折り返し運転は可能であったように思えます。しかし、架線が垂れ下がるトラブルが発生してから、運休となった列車の本数は283本であったそうです。下り、上り別の本数なので、大宮駅で折り返させるとすると単純に計算して2で割った142本となります。10時から24時までの14時間に142本の列車を折り返させる作業は5分55秒おきに生じますので、折り返し時間も短くなり、普段大宮駅で行っていない乗務員の交代や車内の清掃作業などを行えるとはとても思えません。
東北新幹線の一部の列車であるとか、北陸新幹線の列車だけというのであれば大宮駅で折り返すこともできたでしょうが、それすらも前日までに折り返し作業が発生するとわかっていた場合に限られ、当日いきなりは難しいでしょう」(同)
新幹線は、日本の物流や交通の大動脈だ。地震などで停止することは避けられないが、その停止は極力短時間でなければ甚大な影響が出る。また、停止している間の代替輸送手段も常に用意されている必要がある。
今回は停電によるトラブルであり、斉藤鉄夫国土交通相が「多くの利用客に多大な影響を与え、復旧作業中に感電事故も発生した。非常に遺憾だ」と不快感を示しつつ、JR東に原因究明と再発防止を指示し、全国の鉄道事業者に文書で注意喚起したという。
だが、迅速な緊急列車の運行という対応は、鉄道事業者の日々の準備が、不測の事態において真価を発揮した事例だったといえるだろう。
(文=Business Journal編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)