パワハラ加害は橋本環奈ではなく事務所社長?異例の報道否定コメントが話題
10月31日発売の「週刊文春」(文藝春秋)に、所属事務所のスタッフへのパワハラなどが原因でマネージャーが8人も辞めていたと報じられた俳優の橋本環奈。その橋本の所属事務所は同日、社長名で「事実無根であり明らかに事実と異なる」などと全面否定する声明文を発表。約2000文字におよぶ、かなりの長文であるのに加え、
<つい先日もロケ先の福岡から戻って来た時に「人生で一番おいしいヨーグルトを見つけた。」とあの小さな体で大きなヨーグルトの袋を沢山抱えて会社のみんなへとニコニコしながらもってきてくれました>
<共にお仕事する方への敬意と配慮を忘れず接してきた彼女に対してその言動を評価して下さる方こそ圧倒的に多く、それ故に一つのお仕事が終了しても同じ制作会社や御担当者の方々、企業の皆様からまた次の御依頼を頂く>
などと、具体的なエピソードを交えつつ橋本を褒める記述も複数ある点が注目されている。このほか、
<私は確かにスタッフへ厳しく指導したり窘めたりする事はあります。今回は取材の対象者が私のそれらの発言を橋本環奈が発したものとしてすり替え、取材に答えたものと考えられ、貶めようという意図や悪意を感じます>
と、パワハラを行っていたのは橋本ではなく社長であるとも受け取れる記述や、記事の一部を取り上げて具体的に事実無根である旨を説明している記述もみられる点も話題を呼んでいる。今回の声明文の内容、そして週刊誌発売当日に長文の反論コメントを出したことも含めた対応について、危機管理広報の専門家に評価してもらう。
橋本は福岡の地元アイドルユニット「Rev.from DVL」メンバーとして活動していた中学生の頃、ネット上で評判が広まり人気が出始め、東京進出後は現在の芸能事務所・ディスカバリー・ネクストに所属し、活動を展開。数多くの話題の連続テレビドラマや映画に出演するなどブレイクを果たし、大みそか放送の『NHK紅白歌合戦』では3年連続となる司会としての出演が発表されている。現在はNHKの連続テレビ小説『おむすび』に主演している。
橋本の人柄の良さを強調
その橋本に関する「週刊文春」報道を受け、所属事務所は伊藤功社長名で否定する声明文を発表。前述の記述のほかにも、
<もともと裏表のない人柄でさっぱりした性格ですがいつも人には真摯に向き合い、それは外部の方のみならず弊社のスタッフにも同様であり暴言を吐くなどは論外です>
<橋本環奈に関しては多くの方が抱いて下さるイメージ通りの明るく、素直で思いやりのある女性です>
などと橋本の人柄の良さを強調。さらに、報道への対応方針について、
<斯様な記事に関しては内容に相違があると反論しても「取材には絶対の自信を持っています」と返ってくるのが常で、今回も何か反論すれば先方からはそのような対応が返ってくるのかもしれませんし、それは無意味な水掛け論になる事にもつながりかねない>
と説明。このほか、事実誤認の記述があるとして、
<私の経歴ですが、石田純一様のマネジメントをしていたとありました。私は石田純一様のマネジメントに関わった事も関連する会社に在籍していた事も一切なく現場でお見掛けした程度で直接お会いし会話を交わしたことすらありません>
などと具体例をあげて指摘するなど、報道への釈明コメントとして異例の内容となっている。
準備不足であったと思われる部分も
報道への釈明コメントとしては、どう評価できるか。危機管理・広報コンサルタントで、長年、企業・自治体の管理職向けに模擬緊急記者会見トレーニングや危機管理広報、SNSリスク対策研修・セミナーの講師なども手掛けてきた平能哲也氏はいう。
「危機管理広報の観点からみると、記事掲載当日に迅速に対応しているという点は評価できる半面、準備不足であったと思われる部分が目につきます。初回の声明文としては、報道内容は事実無根であるという主張を記載しつつ、詳細については調査した上で改めて発表するという方法もあったかと思いますが、一気にすべてを書いてしまったという印象を受けます。
最大の問題点は、事実誤認だとする一方で『細かく事実誤認を指摘は致しません』『反論しても(略)無意味な水掛け論になる』として、具体的に記事のどの部分がどのように事実誤認であるのかを具体的に指摘していない点と、橋本さんは一部を認めているのか、全面否定なのかという、本人に確認したかの有無も含めて、橋本さん本人からの言葉が記載されていない点です。多くの方が最も関心を持つポイントに触れずに、橋本さんの擁護に終始しており、これで理解や共感を得るのは困難でしょう。
また、危機管理広報上の重要な鉄則の一つは、相手側を必要以上に怒らせないことですが、声明文には『週刊文春』の取材過程・手法や姿勢を非難するかのような表現があり、わざわざ『週刊文春』側を怒らせて続報を出させるような姿勢をとっており、こうした言動はなんのメリットも生みません。『取材の対象者が私のそれらの発言を橋本環奈が発したものとしてすり替え、取材に答えたものと考えられる』という記述も、告発者を挑発しており、元社員などが『週刊文春』や他のメディアに新たな告発をすることを誘発しかねません。パワハラを受けている人が音声を録音して告発したという過去の事例もあり、音声などの新たな証拠が出てくる可能性もあります。危機管理広報においては『もしこのような対応をした場合、どのような悪い方向にいく可能性があるのか』というマイナスの想像力が必要ですが、それが欠如しているように感じます」
声明文が非常に長い
会社として反論・釈明コメントを発表するにあたっては、外部の専門家のチェックを入れることも重要だという。
「今回の声明文を読む限り、全体の構成や言葉の使い方など、弁護士や危機管理広報の専門家のチェックを受けた上で発表したのか疑問に感じますし、社長1人だけで考えて書いたものではないかという印象を受けます。事務所の代表として思いや感情が先走ってしまうのは仕方がない面もありますが、いったんサイト上に掲載してしまうと、その後に削除・修正してもコピーされてネット上に広がり年永久的に残る可能性があるため、文章チェックは複数で慎重に行うべきです。
このほか、声明文が、橋本さん関連の内容(人柄などの記述)と伊藤社長関連の内容(スタッフへの厳しい指導の事実など)が文中に混在しており、わかりにくく、読み手に対して不親切です。橋本さんの人柄を褒めるために引き合いに出しているエピソードも、事務所スタッフにヨーグルトを配ったことがあるなど、橋本さんがパワハラをするような人ではないということを強調するためのエピソードとしては少し弱い気もします。
声明文が非常に長いため、一番伝えたいメッセージがわかりにくい点も問題です。短い簡潔な文章で伝えるべきポイントを一つずつ説明していくべきです。今後事務所が法的な措置を取るのかどうかも今後の大きな関心事、ポイントになるでしょう」(平能氏)
(文=Business Journal編集部、協力=平能哲也/危機管理・広報コンサルタント)