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キャベツ一玉・千円…野菜の価格高騰「今が適正価格。これまで安すぎ」を検証

文=Business Journal編集部、協力=安藤光義/東京大学大学院教授
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「gettyimages」より

 キャベツの全国平均小売価格が平年の3倍を超え、米の店頭価格も前年同月比1.5~2倍となるケースも出るなど価格高騰が続く農作物。SNS上では農業従事者たちから

「それほど酷い自然災害があったわけではないのに という言葉を見たのですが(略)毎日農作業をしていた人間からすると、あの暑さは酷い自然災害でした」

「よく生きのびたなマジで、って思います」

「使ってる機械も燃料も肥料も、包む包材も輸送費も売り場の電気代も、何もかも値上がりしてるんだから当たり前」

「今まで米価が安すぎました。高い価格に慣れてもらいたいです」

といった声が続出。現在の価格こそ適正価格だという指摘も出ているが、現在の農作物の値上がりの原因は何か。そして、今後も高止まりが続く可能性はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 スーパーではキャベツが一玉400円台、店舗によっては1000円以上で販売されるケースも出ており、多くの消費者が野菜の価格が高くなったと実感しているが、値上がりはデータに表れている。農林水産省「食品価格動向調査(2024年12月23~25日)によると、1kgあたりの全国平均小売価格は以下のようになった。

・キャベツ:453円(平年の3.4倍)
・レタス:993円(同2.4倍)
・白菜:269円(同2.0倍)
・大根:256円(同1.9倍)
・ねぎ:1039円(同1.5倍)
・トマト:1089円(同1.4倍)
・にんじん:507円(同1.4倍)
・たまねぎ:358円(同1.2倍)

 調査対象となっている8品目すべてで平年を上回っているが、特に葉物野菜の高騰が際立つ。

 ちなみに同じく農作物としては米の値上がりも顕著だ。2024年の新米の同年9月の相対取引価格は、全銘柄の平均価格が前年同月比48%高となり、06年の調査開始以来過去最高を記録した。スーパーなどの店頭での5kg入り一袋の価格は、前年同月比の1.5~2倍、約1000円高というケースも珍しくない。

 これまで野菜は消費者側からみると「価格の優等生」だった。過去20年の平均卸値としては、果実は約2倍に上昇した一方、野菜は約3割ほどの上昇にとどまっている。

「果物は嗜好品的な性格もあり、品種改良で付加価値を高めた品種も増えて輸出も伸びており、ブランド果実や高級果実は贈呈品としても重宝される。一方、野菜は毎日家庭で使われる“食の日用品”なのでどうしても消費者からは価格を重視され、高くなれば『安い冷凍品の野菜でもいいよね』となりやすいため、値上げをしづらい面がある」(小売チェーン社員)

日本の農業生産の構造的な変化

 現在の値上がりの原因はなんなのか。また、今後も価格は高止まりするととらえたほうがよいのか。東京大学大学院農学生命科学研究科教授の安藤光義氏はいう。

「野菜は気象変動の影響を大きく受ける商品であり、昨年夏の高温や秋の少雨を踏まえれば価格の高騰はやむを得ません。一方、日本農業の生産構造のステージが大きく変わってきており、長期的には価格が乱高下しやすくなるリスクが高まっており、生産費も上昇する傾向にあります。たとえば首都圏の野菜の供給ですが、かつては都市近郊に農家が層として存在しており、ある地域が不作になってもダメージは小さく抑えられ、ある品目が品薄になって価格が上がると新たに生産に乗り出す農家が出てくるといった動きもあり、価格高騰に対して供給量の増加がみられ、均衡が回復する力が一定程度働いていました。

 それが近年では高齢化と農家の減少によって生産地が遠隔に移動するともに、生産者の規模拡大が進みました。その結果、生産性の高い産地から安定的な供給が実現するようになりました。こうした産地形成を野菜安定供給基金が支えました。その一方、品目ごとに特定に地域に産地が集中するようになっていきました。この産地への集中の度合いは品目によって違いはありますが、特定の産地のシェアが高まっています。そうなるとある産地が気象変動で不作となるとそれが与える影響は大きくなります。地域ごとに生産が特化していると代替が利きません。ある産地の不作が全国的な供給量の減少と価格上昇となってあらわれるのです。また、以前だと品薄の作物を商社が海外で生産させて輸入するということもありましたが、現在は円安でそれも難しくなっています。

 近年の価格上昇の要因としては、燃料や資材、肥料などの価格上昇も大きいです。きゅうり、トマトはハウス栽培が主流ですが、燃料や資材の価格上昇は生産コストの上昇に直結してきます。

 以上を踏まえると、現在の尋常ではない価格上昇はいずれ落ち着くと思いますが、その場合でも以前の水準まで下がることはなく、一段階上がった水準になるのではないでしょうか」

労働力確保の問題

 将来的な野菜の供給や価格を左右する大きな要因の一つとして、労働力の問題は無視できないという。

「たとえば白菜農家の場合、かつては2~3haで大規模とされていましたが、今は20ha規模の経営も珍しくありません。そうした大規模農家を支えているのは雇用労働者ですが、その多くは技能実習生などの外国人労働者です。しかし、円安のため日本で働く魅力は薄れてきています。経済成長を遂げて自国の賃金が上昇した中国からやって来る人の数は減少しました。代わって増えたのはベトナム人です。今はインドネシア人が増えているようですが、日本との経済格差が縮小していけば減っていくでしょう。国内では新規就農者は減少傾向ですし、農業雇用労働力の不足は深刻化です。この問題は大規模経営を直撃します。野菜産地では大規模経営の生産シェアは高くなっているので、こうした経営が苦境に立つと長期的には供給量は先細り、価格は激しく上昇してしまうかもしれません」(安藤氏)

(文=Business Journal編集部、協力=安藤光義/東京大学大学院教授)

安藤光義/東京大学大学院農学生命科学研究科教授

安藤光義/東京大学大学院農学生命科学研究科教授

89年東京大学農学部農業経済学科卒業。94年同大学大学院農学系研究科博士課程修了。博士(農学)。2007年東京大学大学院農学生命科学研究科准教授、2008年英国ニューカッスル大学農村経済研究所客員研究員、2015年より現職。著書に『日本農業の構造変動 - 2010年農業センサス分析』、『北関東農業の構造』など。
研究テーマ:農政学、農地制度、構造政策、比較政策(EU/UK)
安藤光義のプロフィール

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