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“物理モデル革命”で製薬プロセスを最適化=Auxilartが挑む製造DXと市場戦略

2025.08.22 2025.08.22 06:44 企業
物理モデル革命で製薬プロセスを最適化=Auxilartが挑む製造DXと市場戦略の画像1
UnsplashのToon Lambrechtsが撮影した写真

●この記事のポイント
・Auxilartは、物理モデルに基づくデジタルシミュレーションで医薬品の製造プロセス開発を効率化し、コスト・時間・人手の大幅削減を可能にしている。
・製薬・創薬・デジタルの知識を統合した強みを持ち、製薬会社には技術提供、CDMOとは協業という柔軟な市場戦略を展開している。
・この技術は医薬品供給不足の解消にも寄与し、創薬業界に大きな変革をもたらし得る。

 東京大学発のベンチャーとして誕生したAuxilart(オキシルアート)株式会社は、医薬品製造のプロセス開発を効率化するデジタルシミュレーション技術を武器に、創薬業界の課題に真正面から挑んでいる。コスト・時間・人手の負担が重くのしかかる製薬の現場に、彼らはどのような変革をもたらそうとしているのか。Chief Operating Officerの沖田慧祐氏に話を聞いた。

●目次

創薬の“最後の壁”を効率化

 Auxilartが手がけるのは、医薬品の製造プロセス開発の効率化だ。

「私たちの強みは、物理モデルに基づいたデジタルシミュレーション技術を用いて、コストと時間を大幅に削減できるところにあります。もともとの技術は、東京大学 杉山・Badr研究室で開発されたもので、そこから事業化しました」(沖田氏、以下同)

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 製薬業界では、医薬品を上市するまでに多大なコストと時間がかかっていることはよく知られている。その中であまり知られていないのが、医薬品の製造プロセス開発の工程だ。製造プロセス開発とは、医薬品を安全かつ安定・大量につくる製造方法を設計・最適化する工程である。この製造プロセス開発では、これまで、物理的な実験を何千回と繰り返しながら製造プロセスを最適化しなければならない。1つの医薬品に3000回もの実験、100億円規模のコスト、6年近くの歳月がかかることも珍しくない。

「それに比べ、私たちは製造プロセスにおける重要なパラメーター(温度、撹拌速度、濃度など)をシミュレーション上で検証・最適化できます。ほんのわずかな調整でも、数千リットル規模の生産では大きな影響が出ますから、これは極めて重要です」

“分断”された知識を統合するチームの強み

 大手製薬会社やCDMO(医薬品製造受託機関)との違いは何か――。沖田氏によると、それは“知識の統合力”だと言う。

「製薬会社の内部は縦割り構造になっていて、製造・創薬・デジタル、それぞれの部門が別々に動いているケースが多いんです。製造プロセス開発をデジタルシミュレーションで行うためには、実はそれらすべての知識が必要になる。私たちはその統合的な知見を、大学での研究から10年かけて蓄積してきました」

 それゆえ、Auxilartには“スタートアップでありながら大手にない競争優位性がある”と自負する。

【市場戦略】製薬会社には“提供”、CDMOとは“協業”

 では、同様の技術を大手企業が後追いで導入してくる可能性はないのか。この問いに対し、沖田氏は明快に答える。

「私たちは製薬会社とCDMOで戦略を分けて考えています。製薬会社には私たちの技術を直接“提供”していきます。一方で、CDMOとは一緒に製薬会社向けのプロジェクトを進める“協業”の形を取ります」

 CDMOは製薬会社からの受託によって動く立場であるため、自ら積極的に新しい技術を導入するケースは少ない。Auxilartはこの構造を理解したうえで、柔軟に戦略を切り分けているという。

医薬品供給不足にも貢献できる技術

 近年、医薬品の供給不足が社会的課題として注目されている。この問題にも、Auxilartの技術は一定の貢献ができるとの考えを示す。

「そもそも製造キャパシティが足りていないのが根本的な問題なんです。そこに対して、製造プロセスの開発が短縮されれば、新薬の生産開始までのタイムラインを大きく縮められます。これは中長期的に見て、非常にインパクトのある改善につながるはずです」

 Auxilartの技術は、製薬業界に確かな革命を起こしている。

東大IPCから起業支援を受ける

 Auxilartは2024年度、東京大学協創プラットフォーム株式会社(東大IPC)のアカデミア共催起業支援プログラム「1stRound」の第10回支援先に採択された。

 東大IPCは2016年、東京大学の100%出資で設立された投資事業会社で、主に「投資」「起業支援」「DEEPTECH DIVE」の3つの事業を行っている。「1stRound」は国内最大規模のコンソーシアム型インキュベーションプログラムで、それに採択されれば、スタートアップ企業が投資家から初回の資金調達(1stRound)をスムーズに受けられるよう、東大IPCから活動資金、専門家によるサポート、オフィス、ラボ、クラウドサービスなど、各種のリソースが提供される。

 東大IPC・1stRound Director 長坂英樹氏は、Auxilartの持つ技術の社会的意義や将来性について、次のように分析する。

「Auxilartは、わずかな実験データから製薬プロセスを数理的に再現・最適化する独自技術により、膨大な時間とコストを要する新薬開発の在り方を根本から変えようとしています。従来のAIを超える高い汎用性と外挿性を備えたモデルは、製薬業界にとどまらず、化学・再生医療など幅広い分野への応用可能性を秘めています。すでに海外大手製薬企業との連携が進む中、今後はSaaS化を通じてスケール性も確保し、プロセス開発のインフラとしての地位を確立することが期待されます。人々の健康に直結する産業において、創薬のスピードと質を飛躍的に高めるAuxilartの挑戦は、医療の未来そのものを変える可能性を持っています」

(取材=UNICORN JOURNAL編集部)

企業情報
社名:株式会社Auxilart
設立:2023年
所在地:東京都文京区本郷
代表者:代表取締役 CEO キム・ジュンウ
事業内容:製薬プロセス開発におけるデジタルシミュレーションツールの提供
URL:https://auxilart.com