20年以上にわたり1000本を超すテレビCMを中心にマーケティング戦略立案に携わってきた鷹野義昭氏が、新たに年間2万本以上オンエアされるといわれるCMについて、狙いやポイントはどこにあるのかなど、プロの視点からわかりやすく解説する。
【今回取り上げる企業】
日清オイリオ
ロシア・ソチでの冬季オリンピックが、感動やドラマに包まれる中、2月23日に閉幕しました。メダルの数や色はともかくとして、記憶に残る世紀の祭典であったのは間違いありません。
さて、みなさん、今回のオリンピックに出場した選手が出演しているテレビCMといえば、何を思い出しますか?
印象に残りやすいと思われるCMでは、ロッテの浅田真央、ニチレイの村上佳菜子、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&Gジャパン)の羽生結弦・高橋大輔、エアウィーヴの浅田真央、このあたりでしょうか。
ほかにも、まだまだあります。木下工務店の高橋大輔、土屋ホームの葛西紀明、佐藤製薬(サトウ製薬)の浅田真央、などを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。
では、次の企業と出演選手の組み合わせは思い出せるでしょうか? クラレの高梨沙羅、ビザ・ワールドワイド・ジャパン(VISA)の高梨沙羅、日本生命保険の高橋大輔、住友生命保険の浅田真央、ここまで挙げると、思い出せない企業もあるのではないでしょうか。あとに挙げた生命保険会社2社については、残念ながら筆者は区別すらついていません。
テレビCMが視聴者の記憶に残るかどうかは、その投下量の多い少ないもあるでしょうが、スポーツ選手を使ったCMでは、一歩間違えると「一時的な人気に乗っかった」エセ応援企業と受け取られてしまうことが少なからずあるでしょう。さまざまな観点で、本当に企業にプラスに働いているのか、疑問を感じてしまうCMもあります。
企業の中には、社会貢献に対する体面や「オリンピック選手だと不祥事が少ない」という理由で起用していることもあります。それは、テレビCMによる直接的効果以外で、話題性やそれに伴うネット上での拡散、CSR(企業の社会的責任)としての意義付けなどの周辺効果は期待できるかもしれませんが、マーケティング効果の面では疑問があります。
しかし、2年に1度というせっかくの機会ですから、企業としてはオリンピックを自社のPRに有効活用していきたいところです。
●日清オイリオの長期CM戦略
そんな中、マーケティング戦略として注目したいのは、日清オイリオのオリンピック選手を起用した「ビューティフルエナジー」シリーズのCMです。
この一連のシリーズは、2005年12月から上村愛子、直後にスピードスケートの岡崎朋美、そして07年から福原愛、08年には体操の冨田洋之も登場しています。
06年のトリノオリンピックから3回の冬季オリンピックを通して、9年目を迎えています。この長きに渡る応援姿勢と一貫したメッセージが重要なのです。そして、夏・冬のオリンピックそれぞれに応援する選手を選定することで、2年というスパンの中で連続性を持たせ、イメージ定着を図り、消費者に忘却させないことも肝となっています。CMでオリンピック選手の一時的な起用の仕方をしている企業は、イメージアップや商品PRに関してプラスに働いていないことが多いように思えます。
次に、オリンピック選手を起用したCMのほとんどが「企業CM」であることを考えると、
「CMを思い浮かべたら、企業名が言えること」が絶対に必要です。その点、日清オイリオのCMでは、食事の大切さを伝えながら、スポーツにはエネルギーが必要、そして選手の栄養サポート、「植物のチカラ 日清オイリオ」とつながります。さらに、日清オイリオのホームページには料理のレシピまで載っています。
冒頭に挙げた企業のCMの中で、記憶に残らない表層的な感じは、この辺のつながり、「だから○○」(○○は企業もしくは商品が入る)が足りないのではないでしょうか。
さて、日清オイリオのCMのナレーションでは、「上村選手をずっと応援しています。」とあります。繰り返しになりますが、この「ずっと」が大事なのです。今回のコラムを書くために再度CMを見直したところ、上村選手のひたむきな練習風景にソチオリンピックで4位となった滑りが重なり、本当に涙が出てしまいました。「視聴者を泣かすCM」とは、まさに企業が培ってきた財産といえるでしょう。数々のオリンピック選手が登場するテレビCMがオンエアされていますが、同社には「マーケティング・金メダル」を贈呈したい思いです。
今回のソチオリンピックでは、新たなスターたちが生まれました。羽生結弦、竹内智香、高梨沙羅、平野歩夢と好ルックス揃い。スキージャンプの葛西紀明も、中年世代を狙った渋いCMに起用されるかもしれません。
これからも、数々の企業がスポーツ選手を起用したCMを制作するでしょう。「継続性」や、企業・商品との「親和性」、そして「勝負の結果だけで判断しない」ということを踏まえて、各企業がどのような創造性を世に発信するのか、想像しただけでワクワクしています。
(文=鷹野義昭/CM戦略アナリスト・マーケティングディレクター)