渋谷マルキューとセシル、20年目の試練を乗り越えられるか?商品力と販売力復活のカギ
「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
「セシルマクビー」というアパレルブランドをご存じだろうか?
この問いかけへの答えは、性別や年齢、ファッションの好みなどによって、違いが出るように思う。
若い女性に人気のセシルマクビーは、“ギャルの聖地”と呼ばれる東京・渋谷のファッションビル・SHIBUYA109(通称:マルキュー)に入居するテナントの中で、13年連続して売り上げNo.1を誇っている。最も流行の移り変わりが早く、浮き沈みの激しいヤングファッション分野の中で、これほど長期間にわたり人気が続くブランドは珍しい。
女性向けブランドをあまり知らない中高年男性でも、黒地に白文字で「CECIL McBEE」のロゴが入った紙袋は見たことがあるかもしれない。
●「マルキュー系ファッション」の代名詞的存在
SHIBUYA 109は、大音響の音楽が鳴り響き、各店舗のスタッフも元気がよく、客のほとんどは若い女性のため、大人の男性は入りにくいだろう。しかし、店内を回ると意外に中高年男性の姿を見かける。マーケティングとして視察するケースも多いようだ。とはいえ、やはり最大の客層は10代女性で、東京へ修学旅行に来る中高生の訪問先としても人気だ。
セシルマクビーがブレイクしたのは1996年。「渋谷にセクシーカジュアルの突風が吹いた」(同ブランドを運営するジャパンイマジネーションの木村達央会長)という時代の風に乗り、売り上げを一気に伸ばす。さらに、当時社会現象ともなった歌手の安室奈美恵に憧れる女性“アムラー”たちが支持するブランドとなったことも認知度を高める要因となった。
当初は「エゴイスト」など並ぶ存在のブランドがあったが、次第にセシルマクビーの独り勝ち状態となる。人気の理由を、同社の小嶋裕之社長は「ファッションの常識を壊した」ことにあると語る。
マルキュー系が台頭する以前の流行だったサーファー系やDCブランド系は、「この服はこうして着るもの」と、着こなし方に一定の約束があった。それがマルキュー系では、例えば「カットソーの胸元を、ここまで開ければカッコいい」「キーワードはエロカッコイイ」「下品に見えるのはNG」などと、生活提案したのだ。それが当時の若い女性に支持された。
実は「ギャル服として提案したのではない」と小嶋社長は言う。
「当時は、大人っぽいセクシーな服で、ターゲットは23~24歳ぐらいでした。それを高校生が背伸びして買ってくれたのです。『お姉さんぽい』に憧れる時代背景もありました」
その後は、セクシーだけでなく、カジュアルやエレガンスにまで商品アイテムを広げていき、21世紀に入ってからは、前述したように13年連続売り上げ1位を記録。マルキュー系ファッションの代名詞的存在となった。常連客の女性は「値段が手ごろな割に品質もいい」と楽しげに語る。ジャパンイマジネーションの年間売り上げ高も、2013年1月期には237億9300万円にまで伸びた。