「NEC HP」より
そんな事態も招きかねないから、日本の大企業では業績が悪化しても管理職ではない一般社員の賃金(基本給)までカットする例はほとんどなく、経営者にとって手を出してはいけない「禁じ手」とされてきたのである。
たとえば、リーマンショック直後の2009年、自動車業界ではホンダやマツダが賃金カットを実施したが、課長以上の管理職が対象で一般社員には及ばなかった。電機業界もほぼ同様に、賃金カットは管理職以上にとどまっていた。ところが最近、NEC、シャープが、その禁じ手に踏み切ろうとしている。3月27日、NECは全社員一律4%カットすることで労使が合意。その直後、シャープが一律2%の賃金カットを労組に申し入れた。NECは1000億円の連結最終赤字を受けての「臨時的な措置」と説明しているが、基本給だけでなく時間外手当や福利厚生のカットも行われるので、待遇全体の切り下げと将来にわたる固定化も意図していることは明らかだ。
「あのカリスマ経営者もやったことなのだが」
3月15日にNECが賃金カットの計画を明らかにした頃、毎日新聞など一部のメディアにはこんな文言が見られた。
「一般社員の賃金カットは、日本電産の永守重信氏もやっている」
日本電産の創業者・永守重信。「3Q6S永守哲学」で町工場を小型精密モーターで世界トップシェアの大企業に育て上げた、産業界に数多くの信奉者がいるカリスマ経営者である。その永守氏が同社社長として一般社員の賃金をカットしたことがあるのだから、「禁じ手」なんかではないというのだ。
日本電産が09年、1万人弱の一般社員の賃金カットを実施したのは事実である。しかし、実施方法や背後にある経営者の考えは、今回のNECとは天地の違いがある。
日本電産の賃金カット幅は一律ではなく、賃金水準に応じて1〜5%の「累進性」があった。賃金水準が低くても現場でがんばる平社員は1%と軽くした。その賃金カット分は翌年、日本電産の業績がV字回復すると、ボーナスに利息1%を付けた上乗せ支給というかたちで全額を社員に返している。だが、後で返したから罪滅ぼしなのではない。
「経営は苦しいがリストラはしない。その代わり、みんなで痛みを分かち合ってほしい」
そんな経営の意思が明確にあったのだ。当時、永守社長は「ワークシェアリング」という言葉を使い、次のように述べている。