「賃金カットは全社で危機感を共有するのが狙いで、赤字転落を予防するためのワークシェアリングです」
本体だけでなく、M&Aで傘下に収めた企業でも正社員を1人も削減しなかったという日本電産の雇用重視の経営方針は、リーマンショック後の危機の局面でも貫かれた。
社員にとっては、賃金カットもつらいが、リストラで退職するのはその数倍、数十倍もつらいはずだ。「せめて『雇用には手をつけない』と約束してくれれば、収入が減ってもまだ納得できるのではないか」(NECの元社員)というように、一般社員の理解を得やすくなる。赤字転落を免れた日本電産が翌年、業績のV字回復を果たしたように、「雨降って地固まる」という結果もありうる。
3年前の日本電産と今回のNECの最大の違いは、NECが同時に雇用にも手をつけていることである。1月26日、同社は国内外で1万人規模の人員削減計画を発表し、一般社員のリストラは5000人規模に及ぶ見通し。人減らしも一般社員の賃金カットもやれば、もう「ワークシェアリング」の言葉は使えない。リストラにおびえながら「減給処分」を強いられるなんて、社員はたまらないだろう。これこそ「新・禁じ手」と言えないか。NECの「パンドラの箱」のフタは開いてしまった。
シャープ、台湾・鴻海との提携でリストラも目前?
一方、シャープはもともと「リストラをしない会社」だった。98年の金融危機で液晶事業が苦況に陥った際も同様で、当時の町田勝彦社長は「ワークシェアリング」の言葉を使って一般社員の賃金カットも検討したが、結局回避した経緯がある。しかし今回は、それにあえて踏み切ろうとしている。リストラをしない経営方針も、3月27日に台湾の鴻海グループから約10%の資本参加を受け入れ業務提携したことで、雲行きは怪しくなってきた。
「鴻海(フォックスコン)は中国で5万人、10万人単位の大リストラを平気でやった会社です。リストラのうま味を知っているだけに、筆頭株主としてシャープに何を言ってくるかわかりません」(中国経済に詳しいジャーナリスト)
それをしのぎきってシャープは、賃金カットと人減らしを同時にやる「新・禁じ手」に踏み込まず、3年前の日本電産と同じ「ワークシェアリング」の段階に踏みとどまってほしいものだ。
(文=寺尾 淳/経済ジャーナリスト)