●野菜高騰の救世主
ご存じのように、この夏、野菜の価格が高騰した。東京都中央卸売市場では、キュウリが平年の2倍以上、ナスやレタス、白菜なども軒並み高値となった。原因はズバリ、天候不順だ。野菜は、卸売市場で「せり」のほか、「入札」「相対」によって価格が決まる。天候不順で入荷が少なく買い手が多ければ、高い価格がつくのは当然だ。今後、異常気象ならぬ「極端気象」が当たり前になるかもしれない。そうなれば、農作物は今夏以上の打撃を受ける可能性もあり、野菜の価格高騰はいっそう深刻な問題になるだろう。
では、野菜の価格を安定させる手だてはあるのか。注目を集めているのが「植物工場」だ。植物工場とは、光合成に必要な光の量や質、水や養分、施設内の気温、湿度、二酸化炭素(CO2)濃度などをモニタリングしながら、植物の生育に最適な環境を人工的に制御し、年間を通して計画生産を行う施設をいう。植物工場を活用すれば、農業の環境依存を克服し、年間を通じて安定的に農作物を生産できるようになる。しかも、安定供給できるので価格の変動も少ない。
「豆苗の出荷量は、お盆を挟んだ前週と後週で1.7倍に増えましたね」と、植物工場を経営する村上農園(本社・広島市)広報マーケティング室の担当者はいう。村上農園は現在、ITを活用した植物工場を含む生産センターを全国9カ所で運営。主力商品の豆苗のほか、スプラウトシリーズなどの発芽野菜を生産している。現在、植物工場は第三次ブームを迎えている。2009年に農林水産省と経済産業書が、植物工場の普及や研究開発のために500億円の大型補正予算を確保したことから、植物工場建設に乗り出す企業が増えたのだ。国内の植物工場は、12年3月末までに127カ所に増えた。そのうち、100カ所以上が密閉された空間で人工光を当てて栽培する「人工光型」、残りが太陽光を併用する「太陽光利用型」だ。人工光型ではレタスやホウレンソウなどの葉物類がつくられ、太陽光利用型ではトマトやパプリカなどが生産されている。
植物工場で生産された野菜は今日、一般消費者のみならず、外食、中食などの業務用にも活用されている。というのは、外食産業は露地野菜の色や重量、形状のばらつきを嫌う。その点、植物工場でつくられた野菜は高度に管理された条件で育つため、一定の品質を保てる。厳しいコスト管理が要求される外食産業にとって植物工場野菜は、管理がしやすいところから欠かせないものになっているのだ。ましてや、今夏のように天候不順に見舞われると、植物工場野菜の社会的存在は大きくなる。日本だけではない。エルニーニョ現象により記録的な干ばつに襲われた豪州や北米でも、今、植物工場が注目を浴びているのだ。