一方、川崎重工は米ニューヨークやワシントンDCなど米国主要都市の地下鉄車両を製造し、ニューヨークではシェア1位を誇る。14年3月期の車両事業の売上高は前年同期比16%増の1537億円だ。川崎重工は車両製造が事業の柱だ。日立は車両に加え信号や運行システムも手掛けているが、両社の事業規模は拮抗する。
海外に目を転じると、日本勢の存在感は薄い。カナダのボンバルディア、仏のアルストム、独シーメンスのビッグ3が、鉄道車両の世界シェアの50%以上を占めており、日本メーカーのシェアはトータルで1割程度にすぎない。
鉄道事業は政府が強く関与するビジネスだ。車両調達でも域内産業の保護に傾きやすく、日立が英国で高速車両を受注したのはまれなケース。車両規格が根本的に違う日本勢が欧州市場で実績を上げる余地は限られている。そこで、狙い目は「非欧州」市場ということになる。
●主戦場はアジア
世界の鉄道市場は成長を続ける分野だ。欧州鉄道産業連盟のレポートを基にした経済産業省の資料は、07年に15.9兆円だった市場規模が20年には22兆円(内訳は高速鉄道1.6兆円、都市鉄道等20.4兆円)に達するとしている。新興国では国家プロジェクトとして鉄道整備を進めている国が少なくない。とりわけ目を引くのがアジア(中東・トルコを含む)だ。時速250km以上で運行される高速鉄道プロジェクトの8割をアジアが占め、新興国を中心に世界で200件以上のプロジェクトが進んでいるといわれている。
世界のビッグ3はアジアなどの新興国をターゲットに据え、近年では低コストを売り物にした中国企業がシェアを伸ばしている。10月末、中国の2大鉄道車両メーカーである中国南車集団と中国北車集団が合併に向けて最終調整に入ったと報道されたが、中国国務院が合併を指示したという。両社は香港株式市場に上場しており、13年12月期の売上高を合算すると日本円換算で約3.4兆円になる。合併の狙いは海外での受注競争力を高めること。安さを切り札に、ビッグ3の牙城を崩すことにある。
熱を帯びる世界の鉄道争奪戦で、オールジャパンはどれだけシェアを広げることができるのか。日本の鉄道産業の趨勢を占う意味でも、早くも重要な局面を迎えているといえよう。
(文=編集部)