急場しのぎ、関係各社は無関心…ルネサス官民共同救済案の内実
トヨタなど出資を打診されている企業は、競争力の肝となるマイコン技術の国外流出は避けたいところだが、「可能な限り、ルネサスとかかわり合いを持ちたくないのが本音」(金融機関)。以前、トヨタが出資を断ったことからも、それは明らかだ。KKRの出現で技術流出が現実味を帯びたので、出資を検討するだけ。少数出資にとどまる可能性が高く、経営に影響力を持つことは考えにくい。
また、現在の大株主である3社は、持て余していた株式を放出することに前向きという。「ようやく関係を切れる。あとはどれだけ手放せるか」と冗談めかす関係者もいるほどだ。
出資の軸となる機構も「ルネサス再生を、どの程度真剣に考えているかは不透明」(関係者)と語る。機構には金融機関やファンドの出身者が多く、「日本の産業の向上というよりは、自身のステップアップを考えている人間が多い」(同)。政府借り入れ枠1兆8000億円を使って「どれだけ目立った企業再編や買収を手がけられるかのみを考えているといっても過言ではない」(同)という。
そうした体質もあり、機構内でも、いくつものルネサス再生プランが錯綜しているという。ルネサス再建にはお荷物のシステムLSI事業を、パナソニックや富士通の同事業と統合する案も浮上している。一部では頓挫したとも報じられたが、現時点でも有力案であることは変わらない。製品の視点に立つか顧客の視点に立つかなどにより、いくつもの再生案が浮上しては消えているという。
いくつもの再生案が浮上しては消える~真剣に再建を考えている企業は皆無?
結局、出資候補企業、機構、現在の大株主3社のいずれもが、ルネサスの真の再生への関心は薄いといわざるを得ない。外部からの圧力は加わらず、ルネサスの行き詰まりを見せる経営体制が温存される可能性は極めて高いというわけだ。
ルネサスは、前述のように資金繰りが楽観視できる状態ではない。8月に全従業員の約3分の1の1万人超を削減するリストラ案を打ち出したが、具体的な工場閉鎖や売却の発表はなく、実効性を問う声も出ている。
「現体制の維持」が透けて見える機構案が実現すれば、ただでさえ停滞している改革が混沌に陥る可能性が高い。そうなれば、ルネサスの再生はさらに遠のいていくであろう。
(文=江田晃一/経済ジャーナリスト)