ソニー、オリンパス争奪戦勝利で進出する医療事業の勝算は?
9月28日付日経新聞より
オリンパスへの出資を弾みに、2020年に医療関連事業で2000億円の売上高を目指す。ソニーは12年3月期に過去最悪の赤字を計上。テレビ事業に代わる新たな収益源の確保がカギだが、「医療機器業界は甘くはない」との見方も少なくない。しかも、ソニーとしての医療事業が育つまで、ほかの事業が頑張っていかねばならない。家電大不況のなか、ソニーの果てしない茨の道が続きそうだ。
ソニーはオリンパスに約500億円を出資する。オリンパス株11%超を握り、筆頭株主に躍り出る。来年の株主総会後には、役員も一人派遣する。株式の過半を握るかたちで、内視鏡の共同新会社も設立。ソニーは新設する内視鏡の事業会社で、同社医療分野全体の約3分の1を稼ぐ見通しだ。
これまでは人体に触れない周辺機器一辺倒だった
「医療関連分野で2000億円」という数字は、6兆円を上回るソニー売上高からみればわずかな数字。だが、これまでの同社の医療事業における売上高目標値は「中長期で1000億円」。今回オリンパスの技術を活用することで、目標を上方修正したかたちとなった。アナリストは「それだけソニーはオリンパスとの提携効果は大きいと見ているのだろう」と指摘する。
ソニーは、30年前から医療用モニター、プリンターなどを手がけてきたが、事業規模は数百億円にとどまっている。あくまでも人体に直接触れない周辺機器が中心だったからだ。オリンパスへの出資で、正真正銘の「医療機器」に念願の参入となったわけだ。
オリンパスにこだわりつづけた思惑は?
年明け以降、オリンパスを巡ってはテルモや富士フイルムホールディングスなど医療に軸足を置く会社だけでなく、パナソニックや東芝も食指を動かした。医療機器分野は先進国の高齢化と新興国の所得増加で拡大が見込める上、内視鏡で7割のシェアを握るオリンパスは確かに魅力。ただ、「1割程度の株を持っても意味がない」(パナソニック)と医療専業のテルモ以外は及び腰だったのが実情だ。
それでもソニーは、オリンパスにこだわりつづけた。それはなぜか?
12年3月期に過去最悪の赤字を計上したソニーは、1万人の人員削減を打ち出すなど構造改革の真っ直中だ。決して余裕があるわけではないが、それ以上に、製品サイクルが短いテレビを中心とした収益構造から、一製品で長く安定的に稼げる収益構造への転換が急務だった。そのために、医療機器事業は不可欠であり、強力な推進力となるオリンパスは是が非でも欲しかったというわけだ。平井一夫社長も、「新たな柱に育てる」と医療機器分野への強いこだわりを示し続けてきた。
技術の補完などメリットは確かにあるが……
実際、オリンパスとの提携は効果が大きい。まず、オリンパスの業界での販路を活用して医療用モニターなどソニー製品を拡販できる。次に、技術的な補完関係が望める。ソニーが主力とする画像センサーであるCMOSセンサーをオリンパスの内視鏡に組み込むことで、機器の高性能化につながる。オリンパスは内視鏡シェア7割を握るが、センサーにはパナソニックから供給を受けてCCDと呼ばれるセンサーを使っている。CMOSに比べ消費電力や処理能力で劣る。CMOSの利用で、苦戦してきた外科向け内視鏡などの市場で、拡販につなげられる可能性も高い。
ただ、本格参入する医療機器事業のハードルは低くない。平井一夫社長も1日に開いた会見で、エレクトロニクス製品に比べて認可基準が厳しいことや、製品サイクルが長期化することを認めた。新会社での新しい内視鏡の出荷も、早くても4年後と見られている。これまでとまったく異なる土俵での戦いを余儀なくされるわけだ。オリンパスに出資したことで「(医療機器分野への進出)リスクを軽減していく」(平井社長)としているが、平たんな道でないことは明らかだ。
医療機器事業は成長市場であることは間違いない。だが、成長市場は同時に競争が激しい市場でもある。「脱テレビ事業依存」を掲げ、映像機器やゲーム、医療への移行を進める平井路線は、アナリストの間では評判が高いが「課題はどれだけのスピードで実行できるのかだろう」との指摘は多い。早期での収益構造の転換が求められる中、医療という「足の長い」事業にあえて踏み込んだが、果たして勝算はあるのか?
競合他社からは「人体に直接触れる医療機器は、ソニーさんが考えているほど簡単な領域でない」との指摘も少なくない。たとえ医療機器事業が順調に育つと仮定しても、「育成期間」は他事業で稼ぐことが求められる。
オリンパスという熱望し続けた「カード」を手中に収めたが、ソニーの辛抱はまだ当分続きそうだ。
(文=江田晃一/経済ジャーナリスト)