幸楽苑290円ラーメン販売中止の高価格路線、それだけでは増収困難と予想される理由
次に、500~1000円までの百花繚乱セグメントである。中心価格帯は650円から850円くらいだが、このセグメントでは、淡麗醤油、豚骨醤油、鶏白湯、豚骨または鶏白湯と魚介のWスープ、さらにはベジタブルスープなど、まさに百花繚乱の非常に個性あふれるセグメントである。
そして、アッパー1000円のセグメントだ。ラーメンは2014年の『ミシュランガイド東京』(ミシュラン)にも選ばれるようになった。素材にこだわり、器にこだわり、料理としてこだわりを持って提供されるセグメントである。
幸楽苑がこれまで主軸としてきたのは、アンダー500円の低価格セグメントだ。同セグメントで成功する秘訣は、まずスケールメリットを生かすことである。だから、それにより「日高屋」や「幸楽苑」のような大資本が調達コストを下げ、多店舗展開によりオペレーションコストを下げることが成功要因となるわけだ。
次に、マス市場をターゲットとすることである。多店舗展開しても、多くの顧客が来なければビジネスは成り立たない。だから、マス市場、言い換えればあらゆる顧客をターゲットとすることになる。そうすると、現在の「幸楽苑」のように、醤油、味噌、塩、つけめんを出し、醤油でもあっさり、こってり、旨辛といったあらゆる顧客のあらゆるニーズに応えることになる。「幸楽苑」にとっては、自社の強みを生かしてビジネスを行える非常に戦いやすいセグメントであり、「幸楽苑」の経営戦略は理にかなっているといえる。また、ラーメン業界でスケールメリットを実現できるだけの大資本は少ないので、このセグメントは「日高屋」と「幸楽苑」で分け合うことができる、ライバルの少ないセグメントであるといえる。
●幸楽苑の強みを生かせず
一方、百花繚乱セグメントでは、顧客はとりあえずラーメンが食べられればよいとは考えていない。自分なりのこだわりを持ち、「淡麗醤油を食べたいから三越前の『なな蓮』に行こう」「ベジタブルな気分なので『ソラノイロ』に行こう」「ガッツリ食べたいので『二郎』に行こう」と考えるわけだ。同セグメントのラーメン店では、「すべての味をなんでも出しますよ」ということは、あまりない。醤油なら醤油、こってりならこってりにこだわり、そこの一点で勝負をかける。だから、満足度の高いラーメンを提供することができる。
ところが、「幸楽苑」の場合、スケールメリットを生かす大量調達、大量生産、大量販売のビジネスモデルである。だから、さまざまなニーズを持った顧客に支持されなければならず、あまりとがったラーメンに一点集中することはできない。
その結果、今回岡山県で支持された醤油らーめんも、中細麺にネギ、海苔、メンマ、ばら肉チャーシューといった、どこでも見られるラーメンになってしまう。もちろん、このラーメンでも低価格セグメントであれば「ちゃんとしたラーメンを低価格で食べられる」という価値を提供することができる。しかし、百花繚乱セグメントで戦うことになると、あまた存在する個性的なラーメンの中に埋もれてしまう恐れがある。ライバルが多すぎて、個性がないとまったく目立たなくなってしまう。