価格帯別競争では、高価格帯では日本ロレアルなどの外資系との競争が激化しているが、今のところは国内約1万人といわれる美容部員によるカウンセリング販売の強みで、なんとかシェアを維持している。だが中価格帯ではライバルのカネボウ化粧品やコーセーにシェアを奪われ、低価格帯では量販店ルートに強い花王の攻勢に加え、富士フイルム、ロート製薬などの異業種グループが台頭、シェアを侵食されている。
●海外大型M&Aで特別損失計上
一方、売り上げの50.5%を占める海外事業(14年3月期)も、大型M&Aの誤算で重症化している。化粧品のグローバルプレイヤーを目指す同社は10年1月、米国の天然化粧品大手ベアエッセンシャルを約1800億円で買収、米国事業本格化に乗り出した。ところが買収後の広告宣伝戦略の失敗に米国天然化粧品市場の競争激化が重なり、ベア社は業績不振に。このためのれんが毀損し、13年3月期に286億円の特別損失計上を強いられた。今期は広告宣伝戦略の修正やベア社本来の強みであるテレビ通販強化などで業績立て直しに腐心しているが、成果は「来期以降でなければわからない」(資生堂関係者)心細さだ。
そこへ今期は、売り上げの14.6%を占める中国事業の失速が表面化した。今春、上海市内の高級百貨店恒例の春夏季新製品特設売り場に、資生堂の化粧品は並ばなかった。商店焼き打ちもあった昨年の「激しい反日デモの影響に配慮した」と同社関係者は釈明する。だが化粧品業界関係者は「化粧品の需要が急速に高まった中間層向けの新製品をラインナップできなかったのが原因」と指摘、次のように説明する。
中国事業の現地販社では、ノルマ達成のための押し込み販売が常識。実需をはるかに超えた量の製品を百貨店や化粧品専門店に出荷。店頭で積み上がった過剰在庫をさばくために、販売奨励金を湯水のように注ぎ込んでいた。これが冒頭の在庫引当金発生原因になっている。また、販売奨励金の天井知らずの増加が販促費や研究開発費の不足を招き、前述の中間層向け新製品不在となった。
●マーケティング力を強化
魚谷氏には、こうした一筋縄でいかない国内外事業の立て直しが課されているが、自信はあるようだ。
魚谷氏は1年半前のマーケティング統括顧問就任直後から全国の販社や専門店を飛び回り、業績不振の真因を現場で探ってきた。その診察で判明したのが「マーケティング力の弱さ」だった。そこで処方箋を「経営の中核にマーケティングを据える」としたが、その意味は「現在は、本社と現場の距離が遠くなっている。会社全体が顧客と現場に向いて仕事をするようになれば、マーケティング力が強まる」(同社関係者)というもの。