柳井氏が引退撤回の理由に挙げたのは、グローバル展開が自分の描いていたスピードに達していないことだった。20年の売上高5兆円という目標に向けて海外展開にアクセルを踏み続けるために、引き続き陣頭指揮を執るというわけだ。
メディアと小売業のアナリストの目は、長男の一海氏に注がれている。柳井氏は社外から人材を集めたが、後継者づくりにことごとく失敗した。そのため、「血の継承に回帰した」(業界関係者)との見方も少なくない。子会社リンク・セオリー会長を務める一海氏は、現在ファストリグループ執行役員だ。柳井氏はずっと「世襲しない」と公言してきた。「普通の会社なら息子でも社長は務まるが、(ファストリを)成長軌道に乗せる力仕事は無理」というのがその理由だ。一方で、息子を大株主として経営陣を監督する取締役にすると公言してきた。だが、「世襲はしない」という発言も額面通り受け取る向きは少ない。「65歳引退を撤回したように『世襲しない』発言も撤回して、息子を社長に就けるのではないか」(前出関係者)との見方が、業界内で急速に高まっている。
戦後の流通業界に旋風をもたらした革命児としては、ダイエー創業者の中内功氏と柳井氏を挙げることができる。中内ダイエー王国が崩壊した要因としては、中内氏が血の継承に執着したことが大きいが、果たして柳井氏も同じ失敗を犯してしまうのか。ファストリの経営トップ継承に、業界と市場の関心が集まっている。
(文=編集部)
【続報】
ファストリ株価は12月24日に4万5880円の年初来の高値をつけた。株式分割を考慮すると、実質的に上場来の高値になる。11月の国内既存店の客単価は前年同月比8.0%増。13年10月以来、14カ月連続して客単価は上昇した。客単価の連続上昇を好感して株価が上がった。