このM&Aは双方にメリットがあった。パナソニックは株式の売却で、リストラすることなくグループの社員を減らすことができ、人件費を削減できた。テンプHDの最大の懸念は、買収後パナソニックからの受注がなくなることだったが、パナソニックが33.4%の株式を残すことで、同社からの受注を確保できた。
今回のエクセル買収も前回と同様。パナソニックが33%強の株式を保有し続け、完全に切れるわけではない。テンプHDはパナソニックへ人材を派遣することができる。エクセルの買収でテンプHDの国内人材派遣事業の年商は3000億円を超え、首位のリクルートHD(国内の同事業で3500億円)を追撃する。
●人材業界、再編機運高まる
首位を独走するリクルートHDの人材派遣部門は、M&Aによる拡大の歴史だ。87年に人材派遣業に参入。03年にオリエントコーポレーション、06年に三洋電機の人材派遣子会社を買収した。
転機となったのは07年。最大手だったスタッフサービスHDを買収し、国内で業界5位から一気に首位に浮上した。スタッフサービスHDの買収額の相場は800億円程度とみられていたが、リクルートHD(当時はリクルート)は1700億円を提示して米マンパワーグループなどに競り勝った。14年3月期の人材派遣の売上高は6124億円。連結売り上げの半分以上を占める。
リクルートHDは人材総合サービスで20年に世界一を目指す。だが、スイスのアデコ、オランダのランスタッドホールディングス、米国のマンパワーグループの売上高はすでに2兆円を超えている。リクルートHDは1兆円に乗せているとはいえ、世界3強の背中ははるかに遠く、現在は世界第5位にとどまる。
そのため、リクルートHDは今年10月に東証1部へ上場し、それにより調達した1000億円を活用し、人材事業の拡大に向けM&Aを積極的に展開する。果たしてどの企業がM&Aの標的になるのか。08年のリーマン・ショック以降、市場の縮小が続いていた人材派遣業界だが、再び陣取り合戦が熱を帯びそうだ。
(文=編集部)