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ABCマート、独り勝ちの秘密は脱本部主導?接客マニュアルなし、2千点の商品暗記

文=福井晋/フリーライター
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 例えば、天気が雨と予想されている日は「この紳士靴は表面をエナメル加工してあるので、雨の日も履ける。それを客に説明すると購入率が高まる」などと、推奨品のセールスポイントをかなり具体的に説明する。

 同社関係者は「初めから『この靴を買おう』と決めたうえで来店する客は少ない。大半は『何かいい靴があれば』と考えながらやって来る。だから雨の日にエナメル加工の靴を紹介すると、得心して買ってゆく。小売り業で一番重要なのは、ニーズを取りこぼさないこと」と言う。つまり、当日の推奨品紹介は、販売機会を逸失しないことが目的のようだ。

 このように、同社の現場では日々、その日の状況に応じた推奨品のセールストークによる「POPのない販促活動」が行われている。

 同社の店員(正社員)は1時間平均2~4足売るのが一般的で、ベテランになると1時間平均6足以上も珍しくないという。

 靴は紳士靴、婦人靴、子供靴、スポーツシューズなどの種類の違いに加え、ブランドごとにサイズと色が異なり、通常の店舗で、平均2000点程度の品揃えをしているといわれる。同社の店員はそれらの靴を、どのコーナーのどの棚の何段目に陳列してあるかをほとんど暗記しているという。

 このため、例えば客がランニングシューズを買いに来ると「練習やレースに使うのか、普段履きとして使うのか、初めて買うのか買い替えか、好みのブランドはあるのか」などを接客しながら聞き出し、客のニーズに合った靴を提案できる。

 いくら正社員といえども、2000点もの商品データを暗記できるのか疑問だが、前出関係者は「自分で履いて、客に説明して、売ってということを1年もやっているうちに、自然に覚えてしまう」と、事もなげに言って笑う。

本部の統制やマニュアルに縛られない現場

 では、こうした現場力は、どのようにして磨かれたのだろうか。

 同社に詳しいマーケティング関係者は「どのような経緯で醸成されたのかはつまびらかではないが、同社には『過度に指導しない』人材育成土壌がある。平たく言えば『自分で売り方を考え、自分のやり方で売れ』。だから同社にはチェーン業種に付き物の接客マニュアルがない」と、次のように説明する。

 接客マニュアルを作ると、それが縛りになって、マニュアル以上の接客ができなくなってしまう。「マニュアルにないことは店長に聞く」といった具合に、指示待ち人間になる。マニュアル以上の接客をして失敗すると減点評価されるが、マニュアル内の接客で失敗すれば、「マニュアル通りの接客をしたのですが」と言い訳が立つ。そんな現場で1年も過ごすと「マニュアル通り」が一番楽になる。その結果、店員は客ではなくマニュアルに向いて仕事をするようになる。同社の現場は、これと真逆のことをしている。

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