『花子とアン』で話題の“あの店”、100年超えても人気の秘密 伝統と進化を両立
あまり知られていないが、スイーツの評判も高い。例えば1月に刊行された『おうちで作れる 老舗のカフェスイーツ』(世界文化社)には、資生堂パーラーや軽井沢・万平ホテルのスイーツなどと並んで、カフェーパウリスタの「ザッハトルテ」や「いちじくのティラミス」が登場した。筆者も「タルトタタン」(りんごのタルト)を食べたが、伝統を踏まえながら甘みのバランスのとれた味だ。もともと浩一氏の奥さんや娘さんが中心となって商品開発を行い、現在は東京・新富町の洋菓子工房で作り、銀座の店に配達しているという。
伝統に寄りかかったり、名声にあぐらをかいていては生きていけない時代。家族が関わる手づくり感を残しつつ、昔はなかった「ティラミス」をメニューに加えるなど、店を時代に合わせて進化させている。
古めかしいからレトロモダンに、全席禁煙も導入
クラシカルな店として人気のカフェーパウリスタだが、一部のお客からは苦情も寄せられていた。最も大きかったのが喫煙問題だ。長年続く店で、高齢の男性常連客も多いので、タバコを吸いながらコーヒーを楽しむお客も目立つ。だが、タバコへの風当たりは厳しい時代となった。
「特に女性客から、タバコの煙への苦情が寄せられていました」(浩一氏)
そこで14年9月、同じビルの2階に店舗を拡大してリニューアルオープン。1階と合わせて100席となり、新装の2階は全席禁煙とした。同時に1階も改装し、古めかしい雰囲気からレトロモダンに生まれ変わった。1階は、平日は全席喫煙可として愛煙家に配慮しつつ、土日祝日は全席禁煙にした。世の中の風潮を無視していては、やがて時代から取り残されてしまう。店の雰囲気や居心地も、時代に合わせて変えたのだ。
リニューアルを機に営業時間も延長し、月曜日から土曜日までは22時半(22時ラストオーダー)までの営業にした。夜はワインやコーヒー生産国のビールも取り入れて、以前からあるキッシュやベーグルサンド、昔ながらのサンドイッチなどのフード類と一緒に楽しめるようにした。ちなみに「キッシュとグラスワインのセット」は1025円で、銀座の落ち着いた雰囲気の中で味わうには高くない。
2階にはカウンター席もあり、目の前でコーヒーの抽出作業を見ることができる。これは現在の飲食店のトレンド「作業の見える化」でもある。コーヒーの種類によって淹れ方は違うが、例えばブラジルの「サンタテレジーニャ」(ポットで提供されて650円)やコスタリカの「ブラックハニー」(同)はペーパードリップで淹れている。
店内にはブラジルやコロンビアなどコーヒー生産地の絵画も飾られており、2階には人気画家・わたせせいぞう氏の手による、大正時代の同店のイラストもある。そのイラストには、同店を愛して通い続けた文藝春秋社創業者・菊池寛の姿も描かれている。ただしこの絵に関する認知度は「まだこれから」(浩一氏)だそうだ。
明治末期からの喫茶文化を今に伝える同店だが、実はそれだけでなく、日本の生活文化史の視点からも大きな役割を果たしてきた。次回はそれも併せて紹介し、老舗の生き残り術を探ってみたい。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)