大塚家具、実は対立してない?娘は父のモデルを継承&拡大、低価格路線転換という誤解
●久美子氏のビジネス構造を9セルで紐解く
このことは9セルで見てみると、さらにクリアになります。
上図上段にある「顧客価値」を見てください。ここが勝久氏との大きな違いです。勝久氏は会員制の導入と手厚い接客による高級家具販売を提案したのに対して、久美子氏は誰でも入店して購入できるカジュアル路線の家具販売を打ち出しました。それが、(1)カジュアル家具に興味がある人を顧客ターゲットにして、(2)気軽な家具選びの空間を提供し、(3)低価格帯の商品を取り揃えることに現れています。報道ではここだけがクローズアップされ、ターゲット層を完全にカジュアル路線に切り替えたと思われました。
しかし、そうでないことは2段目の「利益」を見ればわかります。儲けの柱にしたのは、(4)(5)高級家具に関心を持った人。ただし、(6)顧客が育つまで時間がかかるので、一定期間は低価格帯の家具を販売して収益基盤をつくろうとしました。つまり、久美子氏は基本的には勝久氏と同じように、高級家具販売を儲けの柱にしようとしたのです。
それを裏付けるのが、下段の「プロセス」です。もし、低価格路線を収益の柱にしようとしたなら、(7)(8)(9)に当たる接客や店舗づくりは簡素に済ませるはずです。しかし、ライフスタイル提案などの接客能力は強みとして残しているのが(8)や(9)などを見ればわかります。
以上が、久美子氏の中期経営計画から筆者が読み解いたビジネスモデルです。久美子氏は、勝久氏と真反対の経営をするつもりはなく、むしろ父親がつくり上げたビジネスモデルをさらに拡大しようとしていたことがわかります。
両者が「顧客価値」のみにとらわれず、「利益」も「プロセス」も含めたビジネスの全体像を共有していれば、今回のような争いは避けられたのではないかと思います。ビジネスモデルは、「部分ではなく、全体をとらえる」。それが如実に現れた象徴的な騒動でした。
(文=川上昌直/兵庫県立大学教授)