「後追い自殺」と聞くと、愛し合った恋人たち、あるいは順調に愛を育んだ夫婦などで、一方がなんらかの理由で亡くなり、それを悲観して残された人が自殺するというイメージが強い。
ところが世の中には、いってみればなんの関係もない人が亡くなっても、後追い自殺をする人たちがいる。主に芸能人などの著名人が自殺をした場合に、その報道を受けて自殺者が増加する現象が見られるのだ。
こうした現象は「ウェルテル効果」と呼ばれている。米国の社会学者フィリップスにより命名されたものだが、ドイツの作家ゲーテの著作『若きウェルテルの悩み』に由来している。同作の主人公ウェルテルは叶わぬ恋に悩み自殺するが、これに影響されてウェルテルをまねた自殺者が急増したことから名付けられた。
このウェルテル効果は各国で研究され、著名人の自殺報道が出た後に自殺者が増加する現象が起きていることが確認されているが、一方ではその自殺者の増加が、本当に著名人の自殺報道が引き金となった自殺なのか検証するのは困難だ。
この難題に挑戦し、分析を試みたのが、内閣府の経済社会総合研究所だ。警察庁の自殺統計原票という、自殺者の発見日ではなく死亡日をベースとした全国データを使って分析を行った。著名人の自殺報道の影響は、報道後約10日間続くという研究結果を前提に、報道があってから10日間の自殺者の動向を分析している。
著名人の定義としては、「(最低限)訃報が全国紙に載った人」とし、2009年から13年までの自殺者を対象としている。その内訳は、政治家(主に国会議員)が5人、地方自治体の長が1人、芸能人が15人、スポーツ選手が1人、会社経営者が5人、ジャーナリスト・評論家が3人。
分析の結果、著名人の自殺報道後の10日間は、自殺報道がなかった時と比較して自殺者が4.6%増加していた。その詳細を見てみよう。
まず男女別では、男性が4.42%、女性が5.09%、それぞれ増加しており、女性のほうが割合は高い。さらに年齢別に見た場合には、意外なことに60代男性が9.29%でトップ、次いで20代女性の9.21%、40~60代の女性がそれぞれ8%台の増加となっている。
また、職業別に見た場合には、自営業者・家族従業員が10.3%増加と飛び抜けており、中でも自営業者・家族従業員の男性が9.44%と高い。これに続くのが、主婦の8.29%増加となっている。著名人の後追い自殺と聞くと、アイドルタレントの後追いをイメージしがちだが、10代男女の増加はなく、学生の増加もない。一般的に10代の若者に対して抱くナイーブ、情緒不安定といったイメージは、現代っ子には当てはまらないのかもしれない。
では、後追い自殺をされるような著名人とは、どんな職業の人なのか。
意外なことに、政治家・裁判官が他を圧倒し、増加率は7.69%となっている。特に、男性は9.31%も増加している。圧倒的に多いと予想された芸能人は5.67%の増加。ただし、芸能人の自殺の後、女性の自殺者は8.55%増加するという予想に近い結果も出ている。他方、企業経営者とジャーナリスト・評論家のケースでは増加は確認されていない。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)