そもそもサントリーに品薄商法をする理由はない 大ブームはメーカーにデメリットばかり?
「南アルプスの天然水&ヨーグリーナ」や「レモンジーナ」など、サントリー食品インターナショナルではヒット商品が続いています。しかし、販売が想定を大きく上回り生産が追いつかず一時出荷停止となったため、「わざと少なめに生産し、市場での枯渇感をあおる品薄商法ではないか」との批判が集中しています。こうした批判に対して同社は、「需要を読み間違えたため」と否定しています。
品薄になると簡単には手に入らなくなるため、当然のことながら「なんとしても買いたい」と考える消費者が多く生まれます。さらに、一時生産中止がニュースで取り上げられることによる商品名の訴求、「それほど売れているならいい商品に違いない」といったイメージの向上などにより、売り上げアップに大きく貢献する場合もあるでしょう。
大ヒットがもたらすデメリット
事の真相は不明ですが、筆者はサントリーが品薄商法を展開しているとは考えていません。なぜなら、品薄商法を展開するメリットとデメリットを比較すれば、断然デメリットのほうが大きいからです。
以前、学生と一緒に大手寒天メーカーを訪問し、工場見学やインタビューをしたことがあります。ちょうどテレビがきっかけになった「寒天は健康にいい」という大ブームが過ぎた頃で、「当時はさぞや儲かったことでしょう?」と質問したところ、「とんでもない、迷惑以外の何物でもなかった」と言われ大変驚きました。その理由は概ね以下の通りです。
(1)欠品が相次ぐ卸売業者や小売業者からの度重なる督促への対応
(2)寒天の原料となるテングサも品薄となり、仕入れ値が高騰
(3)通常の生産体制では対応できないため、残業代など生産コストの上昇
(4)コスト増を商品価格に転嫁できないことによる収益悪化
結局、寒天ブームのために売り上げこそ増加したものの、利益が悪化し、長年続いた増収増益は途絶えてしまったといいます。さらに、ブームに便乗した新規参入業者が数多く現れて粗悪な寒天を市場に投入したため、「多くの消費者が寒天に抱くイメージを悪化させたのではないか」と危惧していました。
品薄商法が有効な業界もある?
もちろん、清涼飲料水と寒天では異なりますが、基本的なビジネス構造は類似しています。例えば、一度、欠品になると当然のことながら小売業者は多めに発注し、卸売業者もさらに余裕をもった量を確保しようとするため、全体として実際の需要を大きく上回る発注になってしまいます。こうした実需に基づかない発注はさらに生産現場を混乱させ、また最悪の場合にはブームが去った後、大量の在庫処分という末路に陥ってしまうケースも少なくありません。