事業組織のひとつのかたち「メタボール・コーポレーション」
起業したばかりの若き泰蔵氏は「メタボール・コーポレーション」という将来の事業体構想を披露してくれた。「メタボール」とは、コンピュータグラフィックス(CG)の用語で「n次元の有機的なオブジェクト」という意味。
メタボールの円は中心を同じくする同心円になっていて、その核の部分には泰蔵氏が創業したインディゴが位置して、全体をとりまとめるコーディネーターの役割を果たす。そのすぐ外側の円にはプロジェクトリーダーがいるが、彼らはインディゴの社員ではなく、それぞれが独立した起業家。彼らがさまざまな分野の優れた人材に声をかけては参加を募り、プロジェクトを立ち上げる。声をかけられる人材も自らの才能を売り物にする一種の起業家で、最も外側の円を形成する。そんな「インディゴ、プロジェクトリーダー、才能ある人材」という三重構造の同心円を「メタボール」と呼んでいた。このネットワークは雇用関係ではなく独立した個人と個人のネットワークなので、プロジェクトごとに声がかけられて集まって結成し、終了すれば解散して離れていく。そうやって離合集散を繰り返しながら、変化の激しいITの世界にフレキシブルに対応した。
それは、たとえるならばジャズのミュージシャンがライブのたびに声をかけ合って集まり、セッションするようなものだ。ジャズライブを企画して会場を借りるプロモーターは別にいて、お客さんを呼べるようなネームバリューのあるミュージシャンが、「ドラムはこの人、トランペットはこの人」というように一緒にやりたいと思った実力のあるミュージシャンに声をかけ、「○○&カンパニー」「○○&フレンズ」といった、かりそめのユニット名でライブをする。それが評判になると、集まっていたメンバーは別のミュージシャンからも声がかかり、また同じようなかたちで集まりライブをする。そうやって人脈がどんどん広がっていく。
同じようなことが音楽に限らずクリエイターの世界でもごく普通にあり、人と人のネットワークの上で、個性と個性がぶつかり合う中から斬新なものが生み出される。学生ベンチャーを立ち上げたばかりの泰蔵氏は19年前に、そんな人と人とのネットワークで成果をあげるしくみをITビジネスの世界でやろうとした。