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松江哲明の経済ドキュメンタリー・サブカル・ウォッチ!【第9夜】

おやじギャグから生まれたネジ回しが海外でばかうけ中!

post_1077.jpg『ガイアの夜明け』はテレビ東京系で火曜日22時から。
(「ガイアの夜明けHP」より)

ーー『カンブリア宮殿』『ガイアの夜明け』(共にテレビ東京)『情熱大陸』(TBS)などの経済ドキュメンタリー番組を日夜ウォッチし続けている映画監督・松江哲明氏が、ドキュメンタリー作家の視点で裏読みレビュー!

今回の番組:11月20日放送『ガイアの夜明け』(テーマ:町工場からお茶の間へ!~職人たちが大ヒット商品を生んだ~)

『ガイアの夜明け』(テレビ東京)は常に愉快痛快だが、今回はいつもよりその度合いが高かったような気がする。

 町工場の中小企業のおじさんたちが大ヒット商品を作り、遂にはアメリカ大陸にまで達してしまうという内容だったからだろうか。なんか違うな。もっと軽いのだ。その理由はなんだったんだろう、と録画した番組をもう一度見直した。で、気づいてしまった。

 その理由はダジャレだった。

 穴が潰れてしまったネジでも、頭に1mmの浮きさえあれば外せるのが可能な工具はネジザウルス。ネジに噛み付く恐竜をイメージしているかららしい。で、この商品がアメリカに輸入される際には、吸血鬼(バンパイア)と工具(プライヤー)を合わせてバンパプライヤーズとなる。「恐竜は可愛らしいイメージなので、これでは売れない」という理由らしい。

 持ち手の部分が、恐竜の時は緑だったが、今度は赤。高崎社長も笑いながら改名を了解していた。早速グリップの作成依頼に向かう。国内生産を厳守したい社長は小さな工場へ。そこでは老夫婦がグリップをせっせと作っていた。

 奥さんはキャメラを意識しているのか、お化粧をしている。それがなんだか可愛らしい。「うちの(ような)小さいところでできたものが、アメリカに行くのは誇りに思います」と照れながらコメントする。

 そして、高崎社長の快進撃は止まらない。

  ホームセンターでは子ども向けに恐竜のぬいぐるみをかぶり、製品をアピール。奇抜な格好で興味を引き、とにかく商品を手に取ってもらうのだ。僕も自転車に乗るので、錆びたネジは天敵だ。ウチにあるドライバーでは空回りしてしまい、結局は自転車屋でちょっといじられて千円が飛ぶ。ネジザウルスなら2180円で買えてしまう。うん、これは欲しい。120万本が売れたのも納得だ。

 さらに勢いに乗る社長は、歌まで作っていた。緑色のTシャツを着た社員一同、ノリノリで歌う。「頭のつぶれたネジ 茶色にさびたネジ そこらのやつには外せない 一家に一本ネジザウルス! 出番だよ!」商品の特徴そのまんまな歌詞に思わず苦笑いだが、社長は「イエーイ」と笑顔で締める。

 番組では、このほかにもヒット商品が紹介された。

 純度の高いスズで造られたアクセサリースタンドは折り曲げることが可能で、金属製の耳かきはカテーテルがそれと間違われたことから「だったら作ってみよう」ということになった。「ほこりトリ」はシリコンゴムで出来ていて、ほこりが付きやすいことがネックだったが、それを逆に生かしたことが商品開発に繋がった。

 どれも間違いや、逆転の発想、技術の延長が生かされている。新しいことをするのではなく、視点を変えることで全く新しいモノを生み出すのだ。この流れが、とても現代的だと思う。

 また別のパートでは、瀬戸焼きの職人、吉橋さんも見事な型を作り、金魚の置物を完成させていた。細かな模様が美しい。これも手作業で深さを微調整しているのだ。しかし、仕事はこの 10年で3分の1にまで減っている。このままでは仕事を続けるだけでは先がない。自分で作り、売るしかない。吉橋さんはデザイナー金谷さんに協力を求めることにした。だが、精一杯おしゃれに作ったパスタポレートも金谷さんは手にした途端、大笑い。

「こういう皿はたくさん売ってるし、これでは売れない」と。

 手彫りの技術をもっと生かすべきだ、と凹凸のあるニット柄のどんぶりを提案した。斬新だが、吉橋さんは「セーターの模様を作って大丈夫なのか」と少し不安げ。金谷さんは「伝統産業ビジネスもあるが、そういった技術を生かして現代生活に合ったものに改良する」と言う。

 で、 さらに紹介されるのが、ラッピング用のリボンをレーザー加工の技術を組み合わせて作ったしおり「SEE OH! Ribbon(しおりぼん)」。本にはさんだしおり部分からリボンが飛び出し、装飾効果を出す。結局、ここでもダジャレだった。

 僕は町工場のおじさん、おばさんが集まって、若い人向けにあれこれアピール術を考えた挙げ句、深夜の3時頃、煮詰まった会議で出され、一同がアッパーなテンションで笑っている様子が目に浮かぶ。しかし、案外この位の軽さがちょうどいいのかもしれない。商品に常に名前が記載されている訳ではない。名前は手に取るきっかけにすぎないのだから。

 吉橋さんのどんぶりは、東京、青山にあるMoMA DESIGN STOREに並べられることになった。今度はダジャレではなく「ニットウェアどんぶり」と見た目を生かした名前が付けられた。しかしインパクトは強い。女性客が「かわいい」「花を飾りたい」と声を揃えた。

 現在、吉橋さんは金谷さんと新たな商品を作っている。「すごい技術をもっていても表現しきれない悩みはどこの メーカーにもある。生かし方さえ見つかれば上っていける道筋はある」そうだ。

 ダジャレが満載の今回の番組を見て、もの凄い技術とアイデアを繋ぐのがダジャレであることに納得出来た。歴史ある伝統は素晴らしいが、敷居が高いのも事実。 かといって100円ショップのような安物では満足出来ない。モノのイメージを残しつつ、新たな視点を加えるには、全く新しいネーミングより、知ってるモノに対して、ちょっと変わったポイントを教えるだけでいいのだ。

 だったらネーミングは奇抜なくらいでちょうどいい。なぜなら人は驚きもしないものには触りもしないから。そこで「あ、予想よりもずっといい」となればしめたもの。油断させておいて感動させる。これがヒット商品の秘訣なのだ。
(文=松江哲明/映画監督)

松江哲明(まつえ・てつあき)
1977年、東京都生まれ。映画監督。99年に在日コリアンである自身の家族を撮った『あんにょんキムチ』でデビュー。ほかの作品に『童貞。 をプロデュース』(07年)、『あんにょん由美香』(09年)など。また『ライブテープ』(09)は、第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で作品賞。

BusinessJournal編集部

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