また、ドルの世界的な米国回帰、つまり新興国、途上国からの資本流出を誘発しかねないとされる米連邦準備理事会(FRB)の利上げに関しても、G20声明は「経済見通しの改善に沿って、いくつかの先進国において金融政策の引締めの可能性がより高まっていることに留意する」「我々は、負の波及効果を最小化し、不確実性を緩和し、透明性を向上させるために、特に金融政策その他の主要な政策決定を行うにあたり、我々の行動を注意深く測定し、明確にコミュニケーションを行う」という言葉を盛り込んだ。
力不足だった声明
だが、冷静に見ると、G20の声明に盛り込まれたのは、中国危機と米利上げのリスクという問題の指摘だけだ。具体的な処方箋となると、「金融政策は引き続き、中央銀行のマンデートと整合的に経済活動を支えるだろう。しかしながら、金融政策のみでは、均衡ある成長に繋がらないだろう」「我々は、債務残高対 GDP 比を持続可能な道筋に乗せつつ、経済成長と雇用創出を支えるため、短期的な経済状況を勘案して機動的に財政政策を実施する。この目的のため、我々はまた、引き続き、生産性、包摂性及び成長を支えるために歳出及び歳入の構成を考慮していく」と記したぐらいだ。各国が個別の事情の許す範囲で、通常の金融、財政政策を発動するよう促したにすぎない。
前回の本連載記事でも書いたが、求められていたのは、特定の国からの資本流出を予防して大事に至らせないための国際的な外貨融通の仕組み強化など、異常事態に対する国際的な連携・対応の宣言だ。この点で、今回のG20の声明は不十分であり、力不足だと言わざるを得ない。
そもそも火種とされたリスクを抱える両国が、真面目に火消しをするかどうかもわからない。テロが相次ぐなかで、軍事パレードの断行によって統治能力を誇示するのに躍起になっている習近平指導部が、国民の不満が増幅しかねない、痛みを伴う構造改革に踏み込むかどうか、甚だ疑問である。
加えて、新聞報道によると、イエレン米FRB議長はG20を欠席したという。会議の終了後に、フランス出身のラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事は、「利上げ決定は将来的に覆されない確信が持てたときに初めて実施すべきだ」との趣旨の発言を行い、重ねてFRBの早期利上げをけん制した。しかし、米国経済が回復すれば、リーマンショック以降継続してきた非常時の金融政策を正常な状態に戻す利上げは、FRBが避けて通れない道だ。イエレン議長の異例の欠席は、自らの政策決定がこうした要求によって手かせ足かせをはめられることを嫌ったものとの見方も成り立つ。